今回は前回に引き続き、プラスチック材料の構成(中身)についての話です。前回は材料メーカーについて説明しましたが、今回はコンパウンドメーカーについての話をします。
<コンパウンドメーカー(コンパウンダー)>
材料メーカーから入手した材料に着色剤や添加剤、充填材などの配合剤を混錬し、ペレットまたはマスターバッチなどに加工して成形加工メーカーに販売する仕事をしているのがコンパウンドメーカー(コンパウンダー)です。
配合剤は成形加工メーカーでも添加することができます。しかし、品質安定や成形加工メーカーが持っていない技術・ノウハウをコンパウンドメーカーが持っているなどの理由で、成形加工メーカーはコンパウンドメーカーを利用しています。
設計企業(設計者が所属する企業)がコンパウンドメーカーと直接やり取りをすることは少なく、製品の要求事項は成形加工メーカーを通してコンパウンドメーカーに伝えられます。そのため、製品の要求事項がコンパウンドメーカーにも伝わるような形で、成形加工メーカーに伝えることが求められます。(文書化の徹底はそのための最も重要な手段です。下記記事も参考にしてください。)
材料メーカーが提供する物性データやサンプルチップで材料の性能を評価していたとしても、コンパウンドメーカーで性能が大きく変化するような配合剤が添加され、設計者がそれを知らない場合、品質トラブルの原因となります。
金属材料をメインに使っている設計者は、知らないうちに配合剤が加えられるようなことがあるのかと、疑問に思うかもしれませんが、私が知る限りプラスチック成形加工の業界ではレアケースではありません。
それには4つの事情があります。
①設計者が材料に求める要求事項の定義方法
②成形加工メーカーの製造コスト低減活動(生産性向上/材料単価削減)
③材料に何を配合するかは非開示
④材料構成変更可否の取り決め
①設計者が材料に求める要求事項の定義方法
設計者(設計企業)は自らの実力や設計する製品の特性などに応じて、材料の要求事項を機能、性能、仕様のいずれかで成形加工メーカーに伝えると思います。その際、どのように要求事項を定義するかによって、配合剤が添加される状況は異なってきます。下記の表で、コンパウンドメーカーで配合剤が添加されるケースのいくつかの例を示しています。
【コンパウンドメーカーで配合剤が添加されるケースの例】
ケース | 例 | 設計企業のメリット | 設計企業のデメリット |
<設計企業>
<成形加工メーカー> |
・ポリマー(原料):○○社製PP** |
・コンパウンドメーカーのノウハウに依存していないので、協力企業を柔軟に変更することができる |
・設計企業に仕様を指定できるだけのノウハウが必要 ・材料の性能や製造に問題が発生した場合、設計企業が大きな責任を負う ・仕様を指定された場合、材料の性能や製造に問題が発生しても、真剣に検討してもらえない可能性がある |
<設計企業>
<成形加工メーカー> |
・サンシャインウェザーメーターによる耐候性試験100hで強度低下20%以下 |
|
・要求性能を達成できる配合ノウハウを持ったコンパウンドメーカーの存在が必要 |
<設計企業>
<成形加工メーカー> |
・寸法許容差10.0±0.2mm |
・設計企業に仕様を指定できるだけのノウハウがなくても要求性能を満足する材料を入手することができる | ・要求性能を達成できる配合ノウハウを持った成形加工メーカーの存在が必要 ・成形加工メーカーのノウハウに依存しているので、協力企業を柔軟に変更することはできない ・コストダウンが図りにくい |
<設計企業>
<成形加工メーカー> |
・製品の在庫中に静電気で汚れないようにする |
・設計企業に仕様を指定できるだけのノウハウがなくても要求機能を満足する材料を入手することができる(ただし、要求性能を定義できていなければ、性能不足または過剰性能になる可能性あり)。 | ・要求性能を達成できる配合ノウハウを持ったコンパウンドメーカーの存在が必要 ・コンパウンドメーカーのノウハウに依存しているので、協力企業を柔軟に変更することはできない ・コストダウンが図りにくい |
つまり、設計者が材料に対する要求事項をどのように定義するかによっては、材料に添加する配合剤を決める権限は、成形加工メーカーやコンパウンドメーカーにあると考えられるということです。
配合剤について完全に指示できる程の実力がある設計者や設計企業は非常に少ないと思いますので、すべての要求事項を要求仕様(配合の詳細)の形で指定することは難しいでしょう。また、すべての要求事項を要求仕様として指定できたとしても、その結果起きた責任はすべて設計企業が負うことにもなりかねません。成形加工メーカーもコンパウンドメーカーも、自社に責任がないと思えば真剣に検討することはありません。
したがって、要求事項をどのように機能、性能、仕様に分けて、成形加工メーカーに指定するかを考えることは、設計者にとって非常に重要な事なのです。
スポンサードリンク
②成形加工メーカーの製造コスト低減活動(生産性向上/材料単価削減)
量産が始まると成形加工メーカーは製造コストの低減活動を開始します。プラスチック成形加工業界は競争が激しく、受注段階で利益が十分に取れるような案件は限られています。そこで、各社は知恵を絞って、様々なコストダウン活動を推進します。
量産後における製造コスト低減のメインは、生産性の向上と材料単価の削減です。それぞれにおいて材料の構成が変化するリスクが含まれています。
生産性向上のためには歩留りを上げることが一つの有力な手段です。例えば、寸法安定性が悪い場合、材料にタルクを添加することがあります。タルクを添加すると寸法安定性は増すものの、製品の剛性や強度などが変化します。また、ポリマー(原料)の単価が高い場合、増量剤や再生材を使ってポリマーの使用量を減らせば、簡単にコストダウンが可能です。当然、増量剤や再生材の使用量が多い場合は、製品の性能に影響します。
私が以前立ち上げたプラスチック製品で、成形加工メーカーが無断でタルクの使用量を増減させていたために、製品の剛性が上がり組立工程でトラブルが発生したことがあります。幸い市場での品質問題にはならなかったのでよかったものの、このようなことが起こり得ると考えて対策を打たなければならないと認識した事例となりました。特に要求事項がシビアな製品の生産をしたことがない成形加工メーカーと取引する際には、注意が必要だと思います。
③材料に何を配合するかは非開示
要求事項を要求仕様で指定しない限り、その配合は非開示になっていることが多いと思われます。配合をなぜ非開示にするかは、大きく二つ理由があると思います。一つは、特にコンパウンドメーカーにとっては、配合そのものがノウハウであり競争力の源泉だからです。配合を開示してしまうと、容易に他社に転注されてしまいます。
もう一つの理由は、特に成形加工メーカーにとっては、自社の自由度を向上させたいからです。配合を開示していなければ、ある程度の範囲で配合を調整することができます。成形上の改善やコスト低減のための活動もやりやすくなります。
④材料構成変更可否の取り決め
これまで説明した通り、プラスチック材料はその配合を簡単に変更されてしまうリスクを内在しています。にもかかわらず、材料の配合を成形加工メーカーの判断で、変更してよいのかだめなのかを取り決めしていないことが多いようです。すべての変更を禁止することは合理的ではないケースもあるとは思います。しかし、再生材の使用可否などはある程度取り決めができるはずです。これらの取り決めは明らかに設計者の仕事だと思います。
スポンサードリンク
<設計者のためのプラスチック製品設計>