熱可塑性プラスチックが急速に軟化し始める温度の目安となるのが、ビカット軟化温度(VST)です。荷重たわみ温度とともにプラスチックの短期的な耐熱性を表します。
下記表に主なプラスチックのビカット軟化温度を示します。
表.主なプラスチックのビカット軟化温度(※1)
ビカット軟化温度 B50法 | ||
結晶性 プラスチック |
PE | 70~80℃(HDPE) |
PP | 80~100℃ | |
PA | 195~205℃(PA6/DRY) 230~250℃(PA66/DRY) |
|
POM | 150~160℃ | |
PBT | 180~190℃ | |
非晶性 プラスチック |
PVC | 70~80℃ |
PS | 85~100℃ | |
PMMA | 90~110℃ | |
ABS | 90~100℃ | |
PC | 142~146℃ |
※試験方法:ISO 306(JIS K7206)B50法
ビカット軟化温度測定の考え方は非常に簡単です(ISO 306(JIS K7206))。
ビカット軟化温度は上記図のA50~B120のいずれかの条件で測定されます。
設定した条件下で押込み圧子(1mm2)により試験片に荷重をかけます。押込み圧子が1mm侵入したときの温度がビカット軟化温度です。一般的にB50法が利用されます。
ビカット軟化温度はプラスチックの弾性率の温度特性を示すものです。したがって、同じ特性を評価する荷重たわみ温度と類似の試験結果が得られます。ただし、結晶性プラスチックと非晶性プラスチックで弾性率の温度特性が異なるため、試験条件によっては値に大きな違いが生じることもあります。
表.結晶性プラスチックの荷重たわみ温度とビカット軟化温度(※2)
荷重たわみ温度 (0.45MPa) |
荷重たわみ温度 (1.8MPa) |
ビカット軟化温度 (B50法) |
|
PE | 65~75℃ (HDPE) |
40~50℃ (HDPE) |
70~80℃ (HDPE) |
PP | 90~115℃ | 50~70℃ | 80~100℃ |
PA | 170~190℃ (DRY) |
60~70℃ (DRY) |
195~205℃ (DRY) |
POM | 150~165℃ | 100~110℃ | 150~160℃ |
PBT | 150~165℃ | 55~75℃ | 180~190℃ |
表.非晶性プラスチックの荷重たわみ温度とビカット軟化温度(※2)
荷重たわみ温度 (0.45MPa) |
荷重たわみ温度 (1.8MPa) |
ビカット軟化温度 (B50法) |
|
PVC | - | 70~80℃ | 70~80℃ |
PS | - | 70~80℃ | 85~100℃ |
PMMA | - | 85~105℃ | 90~110℃ |
ABS | - | 75~90℃ | 90~100℃ |
PC | 135~145℃ | 120~130℃ | 142~146℃ |
ビカット軟化温度を測定するメリットは、試験片の入手がしやすいことです。荷重たわみ温度を測定する場合は、80mm×10mm×4mmの短冊状の試験片が必要ですが、ビカット軟化温度の場合は、「一辺が10mm以上の正方板(または直径が10mm以上の円板)/厚みが3~6.5mm」の試験片が使えます。量産品の品質管理などでは利用しやすい試験方法です。
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※1 値は各材料の非強化・標準グレード品について、下記文献のデータを参考に筆者が整理した。
・材料メーカー公開の物性値
・UL Prospector
・CAMPUS
※2 データの出典については以下の記事を参照のこと
【参考文献】
JIS K7206 「プラスチックー熱可塑性プラスチックービカット軟化温度(VST)の求め方」
<設計者のためのプラスチック製品設計>
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