はりの計算式で最大応力の値を導くことは容易です。しかし、はりの「どこに」「どのような」応力が発生しているのかを理解していないと、強度が不足する部分にリブを設けるなどの適切な設計対応ができません。今回は、はりの応力分布について解説します。
下図は両端固定のはり(長方形断面)に集中荷重をかけた様子を、シミュレーションソフトで解析したものです。赤や黄色は応力値が大きく、青や水色は小さいことを表しています。
この結果から分かるように、両端固定のはりに集中荷重が作用すると、両端の上面側と中央の下面側に引張応力、両端の下面側と中央の上面側に圧縮応力が発生します。これを理解するために、まず曲げモーメントとせん断力を知ることが第一ステップです。
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曲げモーメントとせん断力~はりの厚み方向~
荷重が作用しているはりの一部分を取り出して考えてみます。
はりの一部分を取り出すと、そこには曲げモーメントとせん断力が作用しています。これらの力によりはりは変形し、応力が発生します。
<曲げモーメントと曲げ応力>
下図のような向きに曲げモーメントが作用している場合、上面側には圧縮応力、下面側には引張応力が作用しています。
曲げモーメントにより発生する引張応力と圧縮応力のことを曲げ応力といいます。曲げ応力ははりの厚み方向に連続的に変化し、中間部分に応力が発生しない中立面(紙面垂直方向:中立軸)が存在します。中立面から最も離れた上下の端部で曲げ応力は最大となります。この時、はりの断面形状が中立軸に関して対称であれば、引張応力と圧縮応力の大きさは同じです。一般的にプラスチックは圧縮応力よりも引張応力に弱いので、引張応力が最大の部分が最も注意すべき箇所だといえます。
下図は前述のシミュレーション結果の中央部分を拡大したものです。中立面から離れるに従って発生応力が大きくなっている様子がよく分かります。また、中立面付近は応力がほとんど発生していないことも確認できます。
<せん断力とせん断応力>
次にせん断力について見ていきます。はりの断面には、せん断力によりせん断応力が生じます。その様子は下図のように曲げ応力とは大きく異なっています(下図は長方形断面の場合)。
せん断応力は、はりの中立軸付近で最大となり、上下端でゼロになります。曲げ応力の分布とは逆であり、大きさも曲げ応力と比較して非常に小さな値です。そのため、はりの強度計算を行う際に、せん断応力は無視しても問題ないケースがほとんどです。
※はりの長さが極端に短い場合などは、せん断応力の影響を考える必要があります。
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曲げモーメントとせん断力~はりの長さ方向~
曲げモーメントとせん断力は、厚み方向に変化すると同時に、長さ方向にも変化します。長さ方向の変化を表すのに用いられるのが、SFD(せん断力図/Shearing Force Diagram)とBMD(曲げモーメント図/Bending Moment Diagram)です。これらを見ることにより、はりの長さ方向に対して「どこに」「どれぐらいの大きさ」のせん断力と曲げモーメントが作用しているのかを知ることができます。
SFDとBMDを作成するために、せん断力と曲げモーメントの正負の方向を以下のように定めます(教科書によっては向きが異なるケースがあります)。
※「下に凸」に変形させるような曲げモーメント、時計回りに変形させるようなせん断力を正の方向と覚えましょう。
両端固定はりに集中荷重を作用させた場合のSFDとBMDが下図です。
<SFD>
・せん断力が大きい箇所ほどせん断応力が大きくなる。
・せん断力は曲げモーメントの変化率を表す。
・はりの長さが極端に短い場合など、特殊な条件の場合に活用する。
<BMD>
・曲げモーメントが大きい箇所ほど曲げ応力が大きい。
・正の値では下面側に引張応力、上面側に圧縮応力が発生し、負の値では下面側に圧縮応力、上面側に引張応力が発生している。
・曲げモーメントがゼロのところは曲げ応力は生じていない。
SFDとBMDの意味を理解すると、はりのどの部分にどのような応力が発生しているか一目で確認することができます。非常に便利な図です。
SFDとBMDの事例
代表的なはりのSFDとBMDを見てみましょう。
<集中荷重を受けるはりのSFD/BMD>
<分布荷重を受けるはりのSFD/BMD>
SFDとBMDは力とモーメントのつり合いを計算することによって導かれます。実務上は計算式を解く必要はなく、これらの図が意味することが理解できればよいでしょう。
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【参考文献】
日本機械学会(編) 『機械工学便覧 基礎編 材料力学』
村上敬宜 『材料力学』 森北出版
<設計者のためのプラスチック製品設計>
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