前回までに、はりの強度計算を行う方法を解説しました。
参考記事:はりの強度計算(1)
参考記事:はりの強度計算(2)
参考記事:はりの強度計算(3)
今回は、はりの強度計算を実際の強度設計の現場でどのように活用するかについて、以下の3つの事例を使って解説します。
・活用事例① プラスチック製Lアングルの強度設計
・活用事例② リブ断面形状の検討
・活用事例③ スナップフィットの強度設計
活用事例① プラスチック製Lアングルの強度設計
プラスチック製Lアングルを設計するケースを考えてみます。壁にネジで固定するタイプのシンプルなLアングルです(下図)。
Lアングルの先端部分に10Nの荷重が作用した時に、発生する最大応力が20MPa以内、たわみが3mm以内になるように設計することが求められています。Lアングルの厚み、幅、材質(ヤング率)をどのような値にすればよいでしょうか。
このケースの場合、下図のようにLアングルの一部を長方形断面の片持ちはりと考えることによって、容易に当たり付けを行うことができます。
下記表は計算結果の一例です。この他にも様々なパターンを考えることができます。
最大応力のカッコ内の※は、応力集中を考慮した場合の数値です。ここでは応力集中係数1.5として計算しています。応力集中係数については、一番下段の解説をご覧ください。
はり強度計算ツールで実際に計算してみましょう。
この表を作るのに必要な時間はほんの1~2分です。いかに手軽に使えるツールであるかが分かると思います。
どれくらいの精度があるのでしょうか。上記表のNo.4の仕様についてCAEソフトで解析した結果が以下の図です。
比較的よい精度で計算されていることが分かります。
ただし、壁に固定するネジの位置や、Lアングル外側のR寸法によっては、たわみ量や応力集中の程度が変りますので、注意が必要です。
ネジ固定位置を下げると、下図のようにたわみが大きくなります。
また、Lアングル背面のR寸法が大きくなると、下記図のように、背面部分に応力集中が発生します。
はりの強度計算を使う場合は、計算の条件が近いかどうかをしっかり考えながら活用することが重要です。
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活用事例② リブ断面形状の検討
プラスチック製品の強度や剛性を上げる手段で、最も広く使われている方法の一つがリブをつけることです。リブの断面形状を考える際にも、はりの強度計算は非常に有効です。
今回は下図のように、リブをつける場合とリブをつけずに厚みを増やす場合の2通りについて比較してみます。
上記断面形状で両端固定のはりに集中荷重10Nが作用したケースを考えてみます。断面の幅は10mm、リブの抜き勾配は考慮しないものとします。
計算は下記のはり強度計算ツールで行います。
参考記事:はりの強度計算 【両端固定-集中荷重-長方形】
参考記事:はりの強度計算 【両端固定-集中荷重-T形】
上記ツールで計算した結果が以下の表です。
※黄塗り:たわみ量1.5mm以下、引張強さに対する最大応力の安全率が3以上
リブをつけることによって、材料のグレードを上げたり、肉厚を大きくしたりしなくても、強度や剛性を向上できることが分かると思います。
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活用事例③ スナップフィットの強度計算
プラスチック部品同士の締結方法として、スナップフィットは非常によく用いられます。
スナップフィットをよく見ると、片持ちはりに見えます。上記写真のスナップフィットを、以下のような片持ちはりと考えてみましょう。
スナップフィットは先端の段差部分(ここでは1.25mm)を変形させることによって、相手側にはめ込まれます。したがって、1.25mm変形させた時に不具合が起きないように設計する必要があります。
1.25mm変形させたときに発生する応力は、はりの強度計算ツールで簡単に導くことができます。
最大応力のカッコ内※は応力集中係数を1.35として計算
計算は以下のツールで行います。
すなわち、1.41Nの荷重を与えれば、スナップフィットの先端部分が1.25mm変形することを意味しています。この時に発生する応力やひずみを確認し、問題が発生しないかどうかを検討します。
CAEソフトでシミュレーションした結果が以下の図です。
多少の誤差はあるものの、当たり付けをするレベルとしては十分に使えます。
※応力集中係数について
孔や切り欠き、R部分などでは、理論的に求められる応力よりも大きな応力が発生します。そのことを応力集中といい、理論的に求められる応力に対する倍率を応力集中係数といいます。
例えば、理論的に求められる最大応力が10MPa、R部分の応力集中係数が2の場合、R部分に発生する最大応力は20MPaになります。応力集中係数は条件ごとに実験的に求められており、工学便覧や材料力学の教科書などにグラフや実験式として掲載されています。
曲げモーメントに対するR部分の応力集中の場合、以下の図のようにR/hが小さいほど応力集中係数が大きくなります。
応力集中係数はRとhの寸法だけではなく、他の条件によっても値が変りますが、一般的に適用される条件下においては、大雑把にいうと1.2~3ぐらいの値を示します。応力集中を防ぐためにはRをできるだけ大きくした方がよいですが、プラスチック成形品の場合、ヒケやボイドなどの原因になります。応力集中と成形不具合の両方を防止できるバランスの取れた設計を行うことが必要です。
本稿では応力集中について網羅的に掲載されている西田正孝氏著「応力集中 増補版」を参考に応力集中係数を設定しました。
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【参考文献】
西田正孝(著) 森北出版 『応力集中 増補版』
<設計者のためのプラスチック製品設計>
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