物体に引張荷重が作用すると、引張方向に伸び、引張と垂直の方向には縮みます。一方、圧縮荷重の場合、圧縮方向に縮み、圧縮と垂直の方向には伸びます。
荷重と同軸方向のひずみを縦ひずみ(ε)、荷重と垂直方向のひずみを横ひずみ(ε')といいます。縦ひずみと横ひずみの比をポアソン比といい、ν(ニュー)で表します。同一物質ではポアソン比が一定と見なせることが多いため、物質の弾性的性質を示す際に利用されます。
ポアソン比の式に「-」がついていますが、通常、縦ひずみか横ひずみのどちらかが負の値になるため、ほとんどの物質でポアソン比は正の値(0~最大0.5)になります。
ポアソン比が0に近いのは、荷重と垂直方向に伸び縮みしない物質です。コルクのような多孔質の物質が該当します。ポアソン比が0.5に近いのは、引張や圧縮荷重が作用しても体積変化がほとんどない物質です。ゴムのような性質を持つ物質が該当します。
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以下は主な物質のポアソン比です(プラスチックは後ほど説明します)。
表.主な物質のポアソン比
(出所:理科年表2016 p393)
物質 | ポアソン比 |
アルミニウム | 0.345 |
金 | 0.44 |
銀 | 0.367 |
黄銅(真ちゅう) | 0.350 |
石英 | 0.17 |
鉄(軟) | 0.293 |
鉄(鋳) | 0.27 |
銅 | 0.343 |
鉛 | 0.44 |
白金 | 0.377 |
多くの物質は0.2~0.4ぐらいの範囲に収まります。
プラスチックのポアソン比は概ね0.3~0.4程度です。同じ原料でもグレードや配合剤の種類、測定方法の違いなどにより様々な値になりますので、固有の値はありません。下記の表は原料メーカーの物性表や論文などから抽出したポアソン比の値です。
※各プラスチックのポアソン比が記載の範囲に入るという意味ではありませんので、ご注意ください。
表.プラスチックのポアソン比
プラスチック | ポアソン比 | 出所 |
ABS | 0.35~0.38 |
・UMGABS株式会社 |
PP | 0.4 | ・東レプラスチック精工株式会社 「TPS PP」 (http://www.toplaseiko.com/product/tps_pp.html) |
PE | 0.3~0.46 | ・小川 俊夫 (著) 『工学技術者の高分子材料入門』 ・理科年表2016 ・下水道用ポリエチレン管・継手協会「下水道用リブ付ポリエチレン管 耐震設計 計算書」 (http://www.pekyo.jp/program/pdf/K-15EF.pdf) |
PVC | 0.37~0.39 | ・株式会社島津製作所「島津アプリケーションニュース」 (http://www.an.shimadzu.co.jp/test/app/pdf/i205.pdf) ・塩化ビニル管・継手協会 【水道用硬質ポリ塩化ビニル管 技術資料<規格・設計編>】 (http://www.ppfa.gr.jp/05/index03.html) |
PS | 0.34~0.38 | ・東洋スチレン株式会社 「トーヨースチロールの基本特性」 (http://www.toyo-st.co.jp/product/index8_1.html) ・小川 俊夫 (著) 『工学技術者の高分子材料入門』 ・理科年表2016 |
EPS (発泡ポリスチレン) |
0.05~0.15 | ・発泡スチロール協会 EPS断熱建材総合サイト (http://www.jepsa.jp/jepsa_eps/tokusei/tokusei-rikigaku.html) ・ダウ化工株式会社 「ライトフィルブロック」 (http://www.dowkakoh.co.jp/product/litefil.html) |
PMMA | 0.388 | ・和田均, 清家政一郎, and 村瀬勝彦. "PMMA 材の動的破壊靱性に対する試験片厚さ効果について." 日本機械学会論文集 A 編 60.573 (1994): 1183-1187. |
PC | 0.35~0.39 | ・東レプラスチック精工株式会社 「TPS PC」 (http://www.toplaseiko.com/product/tps_pc.html) ・小川 俊夫 (著) 『工学技術者の高分子材料入門』 ・タキロンシーアイ株式会社 「ポリカーボネートプレート 総合技術資料」 (https://www.takiron.co.jp/product/product_01/pdf/policarbonate.pdf) ・三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 「ユーピロン ノバレックス」 (http://www.m-ep.co.jp/pdf/product/iupi_nova/physicality.pdf) |
PBT | 0.35~0.4 | ・東レプラスチック精工株式会社 「TPS PC」 (http://www.toplaseiko.com/product/tps_pbt.html) ・三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 「ノバデュランについて」 (http://www.m-ep.co.jp/pdf/product/novaduran/physicality.pdf) |
6ナイロン | 0.35、0.38 | ・東レプラスチック精工株式会社 「TPS ナイロンシリーズ 6ナイロン」 (http://www.toplaseiko.com/product/tps_nylon.html) |
66ナイロン | 0.3 | ・東レプラスチック精工株式会社 「TPS ナイロンシリーズ 66ナイロン」 (http://www.toplaseiko.com/product/tps_pom.html) |
POM | 0.32~0.38 | ・東レプラスチック精工株式会社 「TPS POM」 (http://www.toplaseiko.com/product/tps_pom.html) ・小川 俊夫 (著) 『工学技術者の高分子材料入門』 ・三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 「ユピタールの物性一覧」 (http://www.m-ep.co.jp/pdf/product/iupital/physicality.pdf) |
PEEK | 0.4 | ・東レプラスチック精工株式会社 「TPS PEEK」 (http://www.toplaseiko.com/product/tps_ti5000.html) |
PPS | 0.34~0.4 | ・東レプラスチック精工株式会社 「TPS PPS」 (http://www.toplaseiko.com/product/tps_pps.html) ・DIC株式会社 「DIC.PPSの基本的性質」 (http://www.dic-global.com/jp/en/products/pps/pdf/dic_pps_property.pdf) |
エポキシ樹脂 | 0.33~0.39 | ・小川 俊夫 (著) 『工学技術者の高分子材料入門』 ・若島久男, et al. "可塑剤を含むエポキシ樹脂の疲労き裂伝ぱ." 材料 25.271 (1976): 370-374. ・久保内昌敏, et al. "じん性を変えた注型用エポキシ樹脂の耐熱衝撃性評価." 材料 41.463 (1992): 516-522. |
天然ゴム | 0.49 | ・小川 俊夫 (著) 『工学技術者の高分子材料入門』 |
ポアソン比が分かれば、垂直方向の変化量に対して水平方向の変化量も計算できます。以下で簡単に計算できますので、チェックしてみてください。
ポアソン比 ν | 0.3 | 半角数字を入力してください(-0.5<ν<0.5) |
直径 d(mm) | 100 | 半角数字を入力してください(d<0) |
長さ L(mm) | 1000 | 半角数字を入力してください(L>0) |
長さの変化量 ⊿L(mm) | 10 | 半角数字を入力してください(縮んだ場合は負の値) |
荷重負荷後の直径 d'(mm) | 99.7 | 計算結果 |
直径の変化量 ⊿d(mm) | -0.3 | 計算結果 |
上記ツールで計算すると分かるように、ポアソン比が0.3ということは、棒材が垂直方向に変化した分の30%が、水平方向に変化することを意味します。すなわち、棒材の伸びが1%(1000mmのとき10mm)の場合、直径は0.3%(100mmのとき0.3mm)縮むということです。
手計算レベルで強度設計を行う場合、ポアソン比を使うことはあまりありません。ポアソン比はCAE(強度解析)で材料物性を規定する場合に主に使用します。強度設計はCAEを抜きに語ることはできませんので、ポアソン比の考え方とプラスチックの大まかな値は理解しておきましょう。
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【参考文献】
日本機械学会(編) 『機械工学便覧 基礎編 材料力学』
JIS K7161-1:2014 「プラスチック−引張特性の求め方-第 1 部:通則」
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<設計者のためのプラスチック製品設計>
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