前回はリスクアセスメントの進め方のうち「②危険源の特定」について解説しました。
今回は最後のステップである「リスクの見積り/評価」について解説します。
「①使われ方の想定」「②危険源の特定」のステップにより、製品の危険源(ハザード)とそれにより引き起こされる可能性のある危害を想定しました。今回のステップでは、その時のリスクを定量的に見積り、許容可能(=安全)かどうかを判断します。リスクアセスメントの核心のステップです。
リスクの見積り/評価を行う前に、もう一度リスクについておさらいしておきましょう。リスクは危害の程度と発生頻度の組み合わせです。下記図の右上に行くほどリスクが大きくなります。
危害の程度が大きくても(死亡などの重大な結果)、発生頻度が極端に小さければ、社会的に許容される可能性があります。一方、危害の程度が小さくても、発生頻度が高ければ、安全だとはみなされません。
したがって、製品のリスクが許容可能かどうかを判断するためには、想定した危害の程度と発生頻度を、それぞれ明確にする必要があります。上記の図で言うと、製品のリスクが何色の部分に該当するかを明確にし、そのリスクが許容可能かどうかを判断します。
危害の程度と発生頻度を明確化するためには、それぞれを定量的に表す必要があります。下記でそれぞれの定量的表現方法について解説します。
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危害の程度の表現方法
下記表は危害の程度の表現例の一つです。国内では行政を含め、多くの企業が利用しています。
危害の程度の表現例
(引用:リスクアセスメント・ハンドブック(経済産業省))
定性的な表現 | 人に対する危害 | 火災 | |
Ⅳ | 致命的 | 死亡 | 火災・建物焼損 |
Ⅲ | 重大 | 重傷、入院治療 | 火災 |
Ⅱ | 中程度 | 通院加療 | 製品発火・焼損 |
Ⅰ | 軽微 | 軽傷 | 製品発煙 |
0 | 無傷 | なし | なし |
「①使われ方の想定」「②危険源の特定」のステップで想定される危害の大きさが、この表のどこに該当するのかを判断します。
下記は前回の記事で想定した危害発生のシナリオから、危害の程度を推定したものです。
【危害の程度検討の例】
危険源(ハザード) | 危害 | 危害の程度 |
ファン (幼児が鉛筆を入れる) |
ファンが割れて飛散し、幼児の目に入る | Ⅱ(通院加療) |
転倒 (扇風機の重量) |
乳児が転倒した扇風機で怪我をする | Ⅱ(通院加療) |
電気 (長期使用による劣化⇒火災) |
火災 | Ⅲ(火災) |
電気 (トラッキングによる火災) |
電気(トラッキングによる火災) | Ⅲ(火災) |
台座裏面のエッジ | エッジによる怪我 | Ⅰ(軽傷) |
当然、それぞれの危険源(ハザード)に対してどのような設計対応をしたかにより、危害の程度は異なってきます。同じ扇風機でも業務用と家庭用では、ファンの大きさも製品の重量も違います。自社の製品の設計内容をよく見極め、危害の程度を判断します。
発生頻度の表現方法
下記の表は発生頻度の表現方法の一つです。国内では行政を含め、多くの企業が利用しています。法律や規格で決まっているわけではありませんが、行政や日科技連の研究などにより、下記表の考え方が広く使われるようになっています。
発生頻度の表現例
(参考資料:リスクアセスメント・ハンドブック(経済産業省))
定性的な表現 | 定量的表現(件/台・年) | |||
【適用製品】 自転車/エスカレーター等 |
【適用分野】 自動車/電動車椅子等 |
【適用分野】 家電/日用品等 |
||
5 | しばしば発生する | 10-2超 | 10-3超 | 10-4超 |
4 | しばしば発生する | 10-2以下~10-3超 | 10-3以下~10-4超 | 10-4以下~10-5超 |
3 | 時々発生する | 10-3以下~10-4超 | 10-4以下~10-5超 | 10-5以下~10-6超 |
2 | 起こりそうにない | 10-4以下~10-5超 | 10-5以下~10-6超 | 10-6以下~10-7超 |
1 | まず起こり得ない | 10-5以下~10-6超 | 10-6以下~10-7超 | 10-7以下~10-8超 |
0 | 考えられない | 10-6以下 | 10-7以下 | 10-8以下 |
「①使われ方の想定」「②危険源の特定」のステップで想定される危害が、どの程度の頻度で発生するかを想定します。
発生頻度を検討する上で注意しなければならないことが2つあります。
1つは同じ「5:頻発する」でも、製品によって発生頻度が異なることです。長い歴史があり危険性が広く社会に共有され、かつ有用性が高い製品などは、発生頻度が高くても社会的に許容される傾向にあります。一方、家電や日用品などの一般的な製品の多くは、高い発生頻度は許容されません。したがって、自社の製品がこの表のどの列に該当するかは、同業他社品のリコール事例、自社の不具合情報などを元に決めておく必要があります。
もう1つは、発生件数が「件/台(稼働台数)」ではなく「件/台・年(累積稼働台数)」であることです。市場で稼働している時間が長いほど、事故が発生する可能性が高くなります。稼働時間に関わらず正しく評価するために、1年当たりの稼働台数に換算して計算します。
下記表の製品A、Bを例に考えてみます。
稼働台数(台) | 累積稼働台数(台・年) | ||
製品A |
年間出荷台数:1万台 |
1万台/年×10年 =10万台 |
1万台/年×10年×10年×1/2 =50万台 |
製品B |
年間出荷台数:10万台 |
10万台/年×1年 =10万台 |
10万台/年×1年×1年×1/2 =5万台 |
稼働台数(台) = 年間出荷台数×出荷継続期間
累積稼働台数(台・年) = 稼働台数×出荷継続期間×1/2
製品A、B共に事故が1件発生したとすると、稼働台数ベースで見た場合、発生頻度は2つの製品で同じです。しかし、累積稼働台数ベースで見た場合、発生頻度は10倍違うことになります。リスクアセスメントの発生頻度は、累積稼働台数で計算します。計算は少し分かりにくいですが、製品Bよりも製品Aの方が安全性が高いということは、感覚的に理解できるのではないでしょうか。
ちなみに、累積稼働台数の計算で1/2を掛けているは、累積稼働台数の計算が三角形の面積になるからです。
次回に続きます。
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最終更新 2016年8月12日
【リスクアセスメント記事一覧】
・リスクアセスメントの必要性
・リスクアセスメントの進め方(①使われ方の想定)
・リスクアセスメントの進め方(②危険源の特定)
・リスクアセスメントの進め方(③リスクの見積り/評価(1))
・リスクアセスメントの進め方(③リスクの見積り/評価(2))
・実務におけるリスクアセスメント実施のポイント
・ポイント①設計プロセスの中に組み込む(1)
・ポイント①設計プロセスの中に組み込む(2)
・ポイント②メリハリをつける
・ポイント③設計者の意識を高く保つ取組みを継続的に実施する
・ポイント④リスクのチェック・レビュー・承認をいつ誰が行うかを明確にする