ポイント②メリハリをつける

前回の記事で、実務におけるリスクアセスメントのポイントの1つ目、「設計プロセスの中に組み込む」について解説しました。

 

前回記事:ポイント①設計プロセスの中に組み込む(1)
       ポイント①設計プロセスの中に組み込む(2)

 

 

<リスクアセスメント実施のポイント>
①設計プロセスの中に組み込む
②メリハリをつける
③設計者の意識を高く保つ取組みを継続的に実施する
④リスクのチェック・レビュー・承認をいつ誰が行うかを明確にする

 

 

今回は4つのポイントのうちの2つ目、「②メリハリをつける」について解説します。

 

 

 

なぜメリハリをつける必要があるのか


前述したように、リスクアセスメントは工夫をしないとだんだん形骸化していきます。前回の記事で解説した、リスクアセスメントを設計プロセスの中に組み込む方法は、その工夫の一つです。

 

もう一つのやるべき工夫がメリハリをつけることです。

 

製品には大小様々なリスクが存在します。すべてのリスクに対して入念なリスクアセスメントを実施することが理想ですが、膨大な工数が必要です。また、リスクは発生頻度という確率を使って定義されているため、論理的かつ高精度に推測することが難しいという特徴があります。

 

このような特徴を持ったリスクを、限られた工数を使って評価するためには、どうしてもメリハリをつけることが必要です。すなわち、危害の程度や影響が大きなものは工数をかけて、小さなものについては工数をあまりかけずに行うことが、実務上においては必要です。

 

 

 

 

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発生頻度の推測にメリハリをつける


危険源(ハザード)さえしっかり抽出できていれば、危害の程度を推測することはそれほど難しいことではありません。製品の構造や過去の不具合事例などから、容易に当たりをつけることができます。

 

一方、発生頻度の推測は簡単ではありません。使用者が特定の使い方をする確率、構成部品の一部が故障する確率など、複数の事象の組み合わせになるからです。

 

 

 

キッチンやトイレなどに設置してある吊戸棚を例に考えてみましょう。

 

 

wall-cabinet

 

吊戸棚は上記図のように、建築下地にネジを使って固定されています。吊戸棚の重量は数十kgあり、床から2m近い高さに設置してあります。したがって、最も大きなリスクは、落下して人に直撃することです。危害の程度は最大Ⅲ(重傷/入院治療)になることが想定されます。

 

吊戸棚が落下し、人に怪我をさせるシナリオはいくつか考えられますが、今回は下記の4つの事象が同時に起きた時に、危害の程度Ⅲの事象が発生すると想定します。

 

 

wall-cabinet-risk

 

 

この場合にどの程度の発生頻度で危害の程度Ⅲの怪我が起きるでしょうか。

 

まずは①~④の発生頻度をそれぞれ検討します。

 

 

  発生頻度を検討するための情報
①下地の強度が基準より小さい ・下地強度は吊戸棚メーカーが図面、組立説明書などで指定している
・建築業者が図面や組立説明書を確認していない可能性がどの程度あるか
・下地強度が十分でも、下地の取付位置を誤ることがあるか
・下地強度不足による不具合情報はどの程度あるか
②20kg以上の子供がぶら下がる ・どのような時に子供はぶら下がるのか
・どのようなレイアウトの場合に子供がぶら下がりやすいのか

・20kg以上の子供がいる家の割合はどの程度か
③15kg以上の荷物を収納 ・一般家庭では吊戸棚にどれくらいの収納物を入れているのか
・吊戸棚の設置場所や高さにより、収納物の量は変わるのか
④落下した吊戸棚が子供に直撃 ・下地がどのように壊れると、吊戸棚が一気に落下してくるのか
・どのようなレイアウトの時に吊戸棚が直撃しやすいのか
・落下してきた吊戸棚を避けることは可能か

 

 

上記のように、多くが定性的な情報から、それぞれの発生頻度を推測します。①~④をすべて掛け合わせたものが、危害の程度Ⅲの怪我が発生する頻度です。

 

設計者AさんとBさんがそれぞれの発生頻度を推測した結果が以下の表です。

 

 

  発生頻度
設計者A 0.1%  1% 10%  10%   0.00001%
(1件/10万台)
設計者B 0.05%   0.4% 7%  7%   0.00000098%
(約1件/100万台)

 

 

上記で分かるように、それぞれの発生頻度が少し違うだけで、怪我に至る可能性は一桁変わってきます。①の0.1%と0.05%の違い、②の1%と0.4%の違いなどを論理的に説明することは非常に困難です。ほとんど数字遊びの世界です。

 

リスクアセスメントで発生頻度の推測をやったことがある設計者であれば分かるはずです。上記のように設計者の意思一つで、発生頻度は一桁ぐらい容易に変えることが可能なのです。

 

発生頻度の推測がいかに当てにならないかを理解して頂けたのではないでしょうか。

 

 

このような特徴を持った発生頻度について、危害の程度や影響が小さな事象を時間をかけて評価することは効率的ではありません。ある意味、KKD(勘と経験と度胸)の世界で評価してもよいと考えています。それは投げやりなわけではなく、長年設計やものづくりに携わった人間が複数で評価すれば、それほど間違った結果にはならないと考えるからです。

 

 

一方、危害の程度や影響が大きなものについては、必要な工数をかけて評価するべきです。KKDでもある程度の精度で評価することは可能ですが、万に一つも失敗があってはならないレベルのリスクにおいては、精度が低過ぎるからです。

 

発生頻度推測の精度を上げることは難しいことですが、不可能ではありません。様々な情報を収集・分析していけば、確実に精度を向上させることができます。niteや日科技連のR-Map実践研究会などが出しているレポート、書籍なども非常に参考になります。

 

 

↓ 日科技連のR-Map実践研究会編著の書籍。様々な分析事例が掲載されている。

 

 

 

 

 

力を入れるべき重大なリスクと対応例


力を入れるべき重大なリスクと対応例を下記の表に示します。

 

  対応例
力を入れるべき重大なリスク ・電気や火を使う製品
・危害の程度「Ⅲ」以上
・重大な製品事故やリコールが多発している製品(他社製品や類似製品を含む)
・乳幼児、高齢者、障害者向けの製品 
・(自社または社会にとって) 新規性の高い製品     

・発生頻度はFTA(故障の木解析)などを利用して詳細に検討する
・リスク判断は各分野の専門家(例:電気、人間工学)を入れて実施。
・通常の設計プロセスに追加して、別のイベントとしてリスクアセスメントを実施。

・リスク判断の承認者は経営層

上記以外のリスク ・上記以外の製品

・発生頻度の推定に時間を掛けない
・リスク判断は「要求仕様書・詳細設計書」や「FMEA」などの通常の設計プロセスの中で実施
・リスク判断の承認者は設計または品質部門の部課長クラス

 

 

 

発生頻度の推測だけではなく、リスクアセスメントの参画メンバーや承認者など、様々なところに工夫の余地があります。自社の状況に合わせて工夫してみてください。

  

 

 

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最終更新 2016年8月19日

 

 

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