ポイント④リスクのチェック・レビュー・承認をいつ誰が行うかを明確にする~リスクアセスメント実施のポイント~

前回の記事で、実務におけるリスクアセスメントのポイントの3つ目、「設計者の意識を高く保つ取組みを継続的に実施する」について解説しました。

前回記事:ポイント③設計者の意識を高く保つ取組みを継続的に実施する

<リスクアセスメント実施のポイント>
①設計プロセスの中に組み込む

②メリハリをつける
③設計者の意識を高く保つ取組みを継続的に実施する
④リスクのチェック・レビュー・承認をいつ誰が行うかを明確にする

今回はリスクアセスメント実施のポイントの最後、「ポイント④リスクのチェック・レビュー・承認をいつ誰が行うかを明確にする」について解説します。

 

製品設計の組織と設計プロセス


製品設計を行う組織の形態は、製品の種類や企業によって様々です。比較的シンプルな製品では設計部(課)が単独で、複雑な製品ではプロジェクトを組み組織横断型で製品設計を進めることが多いと考えられます。

また、設計プロセスは、企画~構想設計~量産設計までの間に、デザインレビュー(DR)を複数回実施するというのが一般的な方法です。そしてDRとDRの間に、様々な分科会や品質を確認する場が設けられます。DRや分科会などにおいて、設計の妥当性や要求事項の達成レベルが確認され、問題がなければ次のステップへ進むことができます。

リスクアセスメントは、それぞれの企業の組織体制や設計プロセスに合わせて、何らかの形で組み込まれています。

 

設計内容のチェック・レビュー・承認


どんな組織体制、設計プロセスを持った企業でも、設計者が考えた内容をどのような形でチェック・レビューし、どのレベルにおける責任者が承認を行うかを明確にすることは重要なことです。チェックもレビューも承認作業もないのであれば、設計プロセス自体不要です。多くの企業が、そういった作業が重要だと考えているからこそ、(無駄だと思えるほど)複雑な設計プロセスを構築しているのです。

複雑な設計プロセスの功罪はここでは問わず、チェック・レビュー・承認作業がなぜ必要なのかを考えてみます。

【チェック/レビュー】
・スキルの低い設計者による問題発生を防ぐ

・設計者のヒューマンエラーを防ぐ
・設計者の不正を防ぐ
・設計者一人よりもさらによい設計解を見出す(組織力を活かす)
・チェックや承認作業があるからこそ、設計者は真剣かつ詳細に検討する
・チェックや承認作業があるからこそ、設計者は文書化を進める

【承認】
・責任が取れるレベルの人間が最終判断をする

 

上記を考えた時、設計内容のチェック・レビュー・承認作業は必須だと言えます。私も10年以上設計者をやってきましたので、これらの作業が、設計者としてはやっかいな存在であることは十分理解しています。それでも、これらの作業なしでは、重大な品質問題が頻発することは容易に想像できます。

 

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リスクアセスメントのチェック・レビュー・承認


リスクアセスメントにおいても、同様の理由でチェック・レビュー・承認作業が必要です。チェックもレビューもない、承認者もいないリスクアセスメントを真剣に行う設計者がいるでしょうか。

チェック・レビュー・承認を、いつ誰がやるのかを明確にすることは、他の設計業務の場合よりも、リスクアセスメントの場合の方が重要です。なぜなら、チェック・レビュー・承認の作業があろうとなかろうと、寸法決めや材料の選定といった設計作業は進めざるを得ません。それをやらない限り、製品設計は前に進まないからです。

しかし、リスクアセスメントは、それ自体をやらなくても設計作業は進んでいきます。チェック・レビュー・承認作業をいつ誰がやるのかが明確になっていないと、優先順位が下がり、形骸化していく原因となります。

ここで難しいのは、チェック・レビュー・承認作業を、ただ明確にすればよいわけではないことです。設計効率やリスクの大きさを考えながら実施しなければ、リスクアセスメントはうまく進めることができません。

例えば、どんな小さなリスクでも、最終判断はトップ(社長)が行うと決めたとします。小さな部品一つでも、危険源(ハザード)は数か所~数十か所近く存在します。それらの部品を組み合わせた製品全体のリスクアセスメントに、社長が付き合える企業はほとんどないでしょう。

それでは、すべてのリスクを設計チームだけで判断してよいのでしょうか。設計チームには様々なプレッシャーかかっています。特に納期とコストに関しては相当なものです。設計チームだけで判断する場合、そのようなプレッシャーの中で、客観的なリスク判断が可能でしょうか。仮に客観的なリスク判断ができたとしても、重大な影響のあるリスクを、責任を負うことができない設計チームが判断してよいでしょうか。

また、リスクの承認者が明確ではない場合によく問題になるのが、組織の階層ごとにリスクの評価が異なることです。設計課長レベルで「C領域」と判断したものが、設計部長レベルで「B領域」だと判断される。それを社長に報告すると「C領域」でいいのではないかと言われる。製品設計ではよくある話ですが、リスクアセスメントではある程度対策を打っていないと、設計工数が大きく増える原因となります。そのような形で設計工数が増えた場合、設計者のモチベーションが大きく低下することも見逃すことはできません。

 

どのように実施すればよいのか


リスクの大きさや内容によって、チェック・レビュー・承認をするレベルや方法を変えることが一つのやり方です。高いリスクは組織の高いレベルで判断する、電気や燃焼器具、高リスクの乳幼児向け製品などは、それぞれの専門家を交えて判断する、などです。

以下は社長⇒部長⇒課長⇒設計チームリーダー⇒設計者という構造の組織を前提にした、リスクアセスメントの実施方法の一例です。

 例

チェック・レビュー

承認 リスクアセスメント
実施方法
危害の程度
Ⅱ以下
設計チームリーダー 設計課長
(品証課長)
FMEA兼リスクアセスメント
危害の程度
Ⅲ以上
設計チームリーダー
設計課長
製品安全分科会メンバー
設計部長
(品証部長)
製品安全分科会リーダー
製品安全分科会におけるリスクアセスメント
電気 設計チームリーダー
設計課長
電気安全分科会メンバー
設計部長
(品証部長)
電気安全分科会リーダー
電気安全分科会におけるリスクアセスメント
燃焼器具 設計チームリーダー
設計課長
燃焼器具安全分科会メンバー
設計部長
(品証部長)
燃焼器具安全分科会リーダー
燃焼器具安全分科会におけるリスクアセスメント
乳幼児/高齢者/障害者向け製品 設計チームリーダー
設計課長
人間工学専門家
製品安全分科会メンバー
設計部長
(品証部長)
製品安全分科会リーダー
製品安全分科会におけるリスクアセスメント
上記の中で議論がまとまらない高リスク製品 経営者(社長) 経営者が参加するDR(デザインレビュー)

 

自社の設計組織、設計プロセスに合わせて、リスクアセスメントのやり方を工夫してみてください。正解はありません。多くの企業が試行錯誤しながら、改善を進めています。

 

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最終更新 2016年8月25日

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【リスクアセスメント記事一覧】
リスクアセスメントの必要性
リスクアセスメントの進め方(①使われ方の想定)
リスクアセスメントの進め方(②危険源の特定)
リスクアセスメントの進め方(③リスクの見積り/評価(1))
リスクアセスメントの進め方(③リスクの見積り/評価(2))
実務におけるリスクアセスメント実施のポイント
ポイント①設計プロセスの中に組み込む(1)
ポイント①設計プロセスの中に組み込む(2)
ポイント②メリハリをつける
ポイント③設計者の意識を高く保つ取組みを継続的に実施する
ポイント④リスクのチェック・レビュー・承認をいつ誰が行うかを明確にする

 

投稿日:2016年8月25日 更新日:

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