身の回りの製品の「残留リスク」事例(1)

前回まで、3ステップメソッドによるリスク低減の進め方を解説してきました。

 

<3ステップメソッドの解説記事>
3ステップメソッド
3ステップメソッド(ステップ①:本質的安全設計)
3ステップメソッド(ステップ②:保護装置(安全装置))
3ステップメソッド(ステップ③:使用上の情報)

 

今回は身の回りの製品の「使用上の情報」から、設計者が製品安全を学ぶ方法ついて事例と共に解説したいと思います。

 

 

 

「使用上の情報」から製品安全を学ぶ


私たちの身の回りにある製品に、どのような残留リスクがあるのか考えたことはあるでしょうか。設計者といえども、他社製品の残留リスクについて、高い関心を持っている方は少ないかもしれません。

 

製品のリスクを完全にゼロにすることは不可能ですので、すべての製品には何らかの残留リスクがあります。設計者や事業者がステップ③の「使用上の情報」を提供している場合、製品には比較的高い残留リスクがあることが想定されます。

 

私は身の回りの製品の「使用上の情報」を読み取り、残留リスクを考えてみることは、設計者にとって効果的な製品安全の勉強方法だと考えています。

 

もちろん、「使用上の情報」だけではなく、分解して構造を調べたり、材料を分析したりするなど、細かく確認した方が学べることが多いことは間違いありません。自社の配慮が不足している点や、逆に過剰に対策をし過ぎている点などにも気付くことができます。

 

しかし、しっかり確認しようと思うとかなりの手間がかかります。直接的な競合企業の製品であれば、それぐらいの手間はかけることができます。しかし、そうでなければ、ただでさえ多忙な設計業務の合間を縫って、そのような時間を捻出することは簡単ではありません。

 

一方、身の回りの製品に表示されている「使用上の情報」を読み取ることは簡単です。自宅で使用している製品、家電量販店やスーパーなどに行ったときに見かけた製品に、どのような「使用上の情報」が表示されているのだろうかと興味を持って見るだけです。

 

特に、製品自体に貼り付けてあるラベルは最も効果的な勉強手段になります。

 

なぜなら、ラベルには安くないコストがかかっているからです。数量や大きさ、紙質などによりますが、数円~百円/枚程度のコストがかかっているはずです。大した残留リスクではないものに対して、そのようなコストを企業側がかけるはずがありません。本当に重要な残留リスクだと思っている、または、かつて製品事故が起きたことがあるなどの理由があるはずです。

 

取扱説明書などには、とりあえず書いておこうといったレベルのものが含まれることがありますが、製品に貼り付けたラベルは、”とりあえず”とか”念のため”というケースは少ないと考えられます。

 

 

そのようなラベルからは、以下のようなことが学べます。

 

(1)「許容可能なリスク」の境界線
 ⇒「許容不可能なリスク」であれば、ステップ①、②で低減したはず。なぜ低減しなかったのか、あるいはできなかったのか。そこから社会が許容可能なリスク(=安全)の境界線が見えてくる。

 

(2)各製品における危険源(ハザード)
 ⇒危険源(ハザード)を発見する能力は、製品安全を実現する上でのキモとも言うべきもの。各製品特有の危険源(ハザード)を知ることができる。

 

(3)製品の使われ方(誤使用)
 ⇒危険源(ハザード)を発見する能力と同様に、製品の使われ方(誤使用)を想定することが、製品安全実現の重要なポイントである。自社製品では経験したことのない「誤使用」を学ぶことができる。

 

 

 

なぜそのラベルが必要なのかを考えるクセをつける、時間があればniteや消費者庁のデータベースなどを調べてみることによって、皆さんの製品安全に対する感度はどんどん向上していくでしょう。

 

 

それでは、事例を見ていきましょう。

 

 

 

 

自動販売機


私が今まで見た自動販売機には、すべて同じ場所に警告ラベルが貼り付けてありました。

 

vender2

自動販売機の警告ラベル

 

 

  内容
残留リスク  自動販売機の転倒により、人が下敷きとなる
危険源(ハザード)  自動販売機の重量
 不安定な設置場所
誤使用  品物やおつりが出てこなくて自動販売機を傾ける
 品物の取り出し口やおつり排出口に足を掛けて乗る

 

 

不特定多数の人が触れることができる製品なので、使用者の誤使用に十分に注意しなければならないでしょう。時には犯罪に近いような行為まで、「予見可能な誤使用」と想定し、安全を確保する必要があると思われます。

 

自動販売機関連業界では、業界全体で転倒防止の対策を実施しているようです。niteや消費者庁の製品事故データベースを検索しても、事故事例は見つけられませんでした。業界の取り組みが功を奏しているのかもしれません。

 

 

【参考資料】
「自動販売機の下敷きになり男子学生が窒息死」(カナダ) 失敗知識データベース
転倒防止対策 一般社団法人全国清涼飲料工業会
自動販売機−据付基準 JIS B8562

 

 

 

 

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ベビーチェア(公共トイレ用)


公共トイレで乳幼児を座らせるためのベビーチェアです。幅30cm近い巨大な警告ラベルを貼り付けています。

 

babychair

ベビーチェアの警告ラベル

 

 

  内容
残留リスク  乳幼児が転落する
危険源(ハザード)  床面からの高さ
誤使用  対象外の乳幼児の使用(小さすぎる/大きすぎる)
 保護者が目を離す
 正しく座らせない
備考  注意喚起を確実に伝えるために以下を実施している
 ・絵を使って説明
 ・英語併記(外国人観光客が増加しているからと推定)

 

 

こちらの製品も不特定多数の人が使用する製品なので、使用者の誤使用には、十分に注意する必要があります。また、子供が対象の製品であるため、社会のリスク許容度は著しく低下します。したがって、なおさら製品安全にしっかり対処すべき製品です。

 

 

調べてみると、オムツ交換台で、乳幼児が落下し頭蓋骨を骨折する事故が実際に発生しています。

 

「ショッピングセンター内の多目的トイレに設置されたオムツ交換台から乳児が転落し負傷した事故」 国民生活センター

 

 

この事故では保護者が目を離した隙に、乳児がオムツ交換台から落下しました。この事故を調査した国民生活センターの専門委員会では、手洗器のレイアウト、注意喚起の視認性、付属ベルトに対する理解などの状況によって、保護者が乳幼児から目を離すことは容易に予想できると報告しています。

 

国民生活センターが設置した専門委員会なので、結論が消費者寄りであることは否定できません。しかし、保護者が目を離すことが「予見不可能」であると考えることは、設計者としてはリスクが高いと思われます。以下のように乳幼児の転落によるリコールが発生していることも理由の一つです。

 

 

■イケアジャパン株式会社 ハイチェア(子供用)リコール
 

 (リコール理由)
 「ハイチェアの安全ベルトが使用中に突然外れ、転落するおそれがあるため。」(消費者庁HP)

high-chair

ハイチェア
(出所:消費者庁HP)

 

 

 

 

■株式会社ティーレックス ベビーチェアリコール
 

 (リコール理由)
 保護者が目を離した際に乳幼児が抜け出して落下するおそれがあるため(消費者HP)

baby-sofa

ベビーチェア
(出所:消費者庁HP)

 

 

乳幼児が頻繁に転落するような製品は、即リコールになると考えておいて間違いはありません。

 

乳幼児を座らせる、寝かせるための製品は、保護者が目を離した隙に転落することに対するリスクを十分に低減することが重要であることを学ぶことができました。

 

 

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【3ステップメソッド】
3ステップメソッド
3ステップメソッド(ステップ①:本質的安全設計)
3ステップメソッド(ステップ②:保護装置(安全装置))
3ステップメソッド(ステップ③:使用上の情報)
身の回りの製品の「残留リスク」事例(1)
身の回りの製品の「残留リスク」事例(2)

 

 

最終更新 2016年8月2日

 

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