3ステップメソッドによる具体的なリスク低減の方法を解説していきます。今回はステップ①の本質的安全設計です。
本質的安全設計は設計者が最優先に取り組むべきリスク低減策です。基本的には危害の程度を低減させることを目的としていますが、一部発生頻度を低減させる方策も含まれます。
本質的安全設計は以下の3つに分類することができます。
<ステップ① 本質的安全設計>
(1)危険源(ハザード)自体を取り除く
(2)危険源(ハザード)による危害の程度を小さくする
(3)危害の発生頻度を小さくする
それぞれについて身近な製品である扇風機を例に解説します。
スポンサードリンク
(1)危険源(ハザード)自体を取り除く
使用者に危害を与える原因となるものを危険源(ハザード)と言います。危険源(ハザード)自体がなければ、製品が壊れても、使用者が間違った使い方をしても、危険な状態に陥ることはありません。したがって、危険源(ハザード)自体を取り除くことが、リスク低減に最も高い効果を発揮します。
以下は扇風機の危険源(ハザード)の例です。
ちょっと考えただけでもたくさんの危険源(ハザード)を抽出することができます。皆さんも他に危険源(ハザード)がないか考えてみてください。
危険源(ハザード)はISO12100やEC(欧州委員会)消費生活用製品のリスクアセスメントガイドラインでリスト化されています。以下のページで危険源(ハザード)リストをまとめています。抜け・漏れなく危険源(ハザード)を抽出したい時に参考にしてください。
参考記事:設計者のためのフレームワーク 「危険源リスト(ハザードリスト)」
まずは、これらの危険源を取り除くことができないかを考えます。
<(1)危険源(ハザード)自体を取り除く>
危険源(ハザード) | 対応方法 |
有害物質 | 使用しない |
首振り機構 (指はさみ) |
隙間をなくす(大きくする) |
エッジ | 面取り加工 |
ファン (巻き込まれ/飛散) |
なくす |
危険源(ハザード)を取り除くことは、最も高いリスク低減効果があります。しかし、製品の機能と直結していることが多いため、取り除くことは簡単ではありません。
危険源(ハザード)自体を取り除くという難しい課題に、画期的なアイデアで答えを出した製品の例が、ダイソン社のファンのない(見えない)扇風機です。この扇風機では、ファンに髪の毛が巻き込まれる、幼児が棒を差し込んで怪我をするなどの事故は、ほとんど発生しないのではないでしょうか。
ダイソン ファンのない(見えない)扇風機
実際には、扇風機本体の下部にファンが入っているので、危険源(ハザード)は取り除かれていないと考えることもできます。しかし、ファンが回っているのが見えることにより、幼児に危険な行動を促していると考えると、危険源(ハザード)自体が取り除かれた製品と考えても差し支えないでしょう。
(2)危険源(ハザード)による危害の程度を小さくする
危険源(ハザード)の存在は製品の機能と直結しているため、危険源(ハザード)自体を取り除くことは簡単ではありません。そこで、次に危険源(ハザード)による危害の程度を小さくすることを検討します。このステップで設計者が対応できることは非常にたくさんあります。可能な限り知恵を絞って、対策を打つことが求められます。
<(2)危険源(ハザード)による危害の程度を小さくする>
危険源(ハザード) | 対応方法 |
ファン (巻き込まれ/飛散) |
軽量化/回転数低減/軟質材使用 |
転倒 | 軽量化/全高を低く/重心を低く |
首振り機構 (指はさみ) |
回転力低減 |
モーター (火傷) |
表面温度低減 |
騒音 | 発生音の低減/健康被害の少ない周波数 |
ここまでの2つが、3ステップメソッドの中で唯一危害の程度を小さくする方法です。これ以降はすべて発生頻度を小さくする方法です。
(3)危害の発生頻度を小さくする
製品の基本機能自体の工夫により、危害の発生頻度を低減します。3ステップメソッドのステップ②「保護装置(安全装置)」も危害の発生頻度を低減することを目的としますが、ステップ②では製品の基本機能に保護装置(安全装置)を追加することにより発生頻度を低減します。
<(3)危害の発生頻度を小さくする>
危険源(ハザード) | 対応方法 |
電気周り (火災/感電) |
難燃材料 |
ファン (巻き込まれ/飛散) |
指が入りにくいメッシュカバー |
その他 | 材料の信頼性/強度設計/絶縁性能/ トラッキング防止のための防水構造 他 |
次へ 3ステップメソッド(ステップ②:保護装置(安全装置))
前へ 3ステップメソッド
スポンサードリンク
【参考資料】
ISO/IECガイド51:2014(JISZ8051) 「安全側面-規格への導入指針」
【3ステップメソッド】
・3ステップメソッド
・3ステップメソッド(ステップ①:本質的安全設計)
・3ステップメソッド(ステップ②:保護装置(安全装置))
・3ステップメソッド(ステップ③:使用上の情報)
・身の回りの製品の「残留リスク」事例(1)
・身の回りの製品の「残留リスク」事例(2)
最終更新 2016年7月28日