アレニウスの式を利用する場合の注意点
アレニウスの式は適切に使わないと、正確なデータを取得することができません。特にプラスチックやゴムなどの有機材料は、初期値の段階で物性値のバラツキが大きいため、試験の実施方法によって予測に大きな違いを生じます。不正確なデータで設計した製品は、長期間の使用後に不具合が発生し、大きな製品クレームの原因になってしまいます。また、加速試験とはいえ、かなりの手間がかかる評価試験であるため、効率的に実施することも重要です。私のこれまでの経験も踏まえて、考慮すべき事項について以下で述べます。
■製品の使われ方をしっかり検討し、材料にとって最悪の条件を明確にした上で実施する。
■10℃2倍則(10℃半減則)などの経験則や同種の材料のデータなどを用いて、当たりを付けた上で実施する(評価の効率化のため)。
【製品設計手法・ツール・フォーマット】 10℃2倍則(10℃半減則)
【設計者のための技術計算ツール】 10℃2倍則(10℃半減則)
【設計者のための技術計算ツール】 8℃2倍則(8℃半減則)
【設計者のための技術計算ツール】 12℃2倍則(12℃半減則)■ガラス転移温度より低い温度で実施する(高温の方が早く試験が済むが、ガラス転移温度に近いと不正確なデータになることも多い)。
■温度は3水準以上(できれば4水準以上)取る(直線の傾きの精度を上げるため)。
■各温度で複数のデータを取得する(初期値のバラツキが大きいため)
■水分やガスなど他の劣化要因が作用しないようにする。
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アレニウスの式の適用事例
アレニウスの式は多くの企業で設計検討や寿命予測などの加速試験に活用されています。JISに規定があるアレニウスの式の適用事例だけでも以下のようにたくさんあります。
<JISに規定があるアレニウスの式の適用事例>
例 | JIS規定 |
プラスチックの耐熱性 | 「プラスチック-長期熱曝露後の時間-温度限界の求め方」(JISK7226) |
電気絶縁材料の熱的耐久性 | 「電気絶縁材料-熱的耐久性-第1部:劣化処理手順及び試験結果の評価」(JISC2143) |
架橋ポリエチレン管の耐久性 | 「架橋ポリエチレン管(PE-X)―期待強度に対する時間及び温度の影響」(JISK6795) |
建築免震用積層ゴム支承の耐久性 | 「建築免震用積層ゴム支承-第2部:試験方法」(JISK6410-2) |
光ディスクの寿命予測 | 「情報技術-情報交換及び保存用のデジタル記録媒体-長期データ保存用光ディスク媒体の寿命推定のための試験方法」(JISX6256) |
半導体レーザモジュールの信頼性 | 「光伝送用半導体レーザモジュールの信頼性評価方法」(JISC5948) |
JISに規定されているもの以外にも、コンデンサの寿命、原子の拡散、プラスチックの加水分解、色差、賞味期限など様々なものへの適用事例が書籍、論文等で紹介されています。アレニウスの式の適用範囲が非常に広いことが理解できると思います。
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【参考資料】
JISK7226 「プラスチック-長期熱曝露後の時間-温度限界の求め方」
本間精一 『設計者のためのプラスチックの強度特性』 工業調査会
齋藤勝裕 『数学いらずの化学反応論―反応速度の基本概念を理解するために』 化学同人
最終更新 2016年3月30日