10℃2倍則(10℃半減則)

アレニウスの式(アレニウスの法則)の記事でも解説した通り、プラスチックやゴムなどの有機材料は時間の経過とともに劣化します。その劣化の進行具合を知ることは、製品を設計する上で非常に重要なことですが、加速試験は非常に手間がかかります。

【製品設計手法・ツール・フォーマット】 アレニウスの式(1)
【製品設計手法・ツール・フォーマット】 アレニウスの式(2)

候補となる材料すべての加速試験をするわけにはいかないので、材料を絞り込むための目安になるようなものがあると便利です。その目安として設計の現場で利用されている設計ツールが、10℃2倍則(または10℃半減則)などの経験則です。

 

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10℃2倍則は、温度が10℃上昇・下降すると、材料の劣化のスピードや寿命が2倍・半減するという経験則です。

  温度 強度が半分に劣化するまでの時間(寿命)
実測 50℃ 1000h
10℃2倍則で予測 60℃ 500h(50℃の時の半分)
10℃2倍則で予測 70℃ 250h(60℃の時の半分)

 

ただ、気になるのは、10℃2倍則が目安として使えるほど信頼性があるのかということだと思います。

まずは、アレニウスの式から、この経験則が理論的に成り立つのか考えてみます。(資料※1を参考に解説しています)

アレニウスの式より

ln L=A" + Ea/RT・・・①

 

L:反応がある一定レベルまで進む時間(例:材料強度がしきい値以下となる:寿命)
A":定数
Ea:活性化エネルギー

R:気体定数
T:絶対温度(K)

 

式の導出は下記ページを参照

【製品設計手法・ツール・フォーマット】 アレニウスの式(1)

 

T(K)の時の寿命を L1、T+10(K)の時の寿命を L2とすると、

ln L1=A" + Ea/RT・・・②

ln L2=A" + Ea/R(T+10)・・・③

式②から式③を引くと

ln L1/L2=Ea/R{1/T - 1/(T+10)}・・・④

となります。

L1/L2は寿命の低下率を表しています。式④の右辺は温度によって変化しますので、10℃2倍則は理論的には成り立たないことが分かります。

ただし、活性化エネルギーEaと温度Tの値によっては、ちょうど10℃2倍則が成り立つ材料があることから、昔から経験則として利用されてきたようです。

私自身もプラスチック材料の劣化の目安として、10℃2倍則を使ってきました。定量的に整合性を確認したことはないのですが、全く見当違いの値になるということはなかったように思います。

また、活性化エネルギーEaと温度Tの値によっては、8℃や12℃で同様に2倍則(半減則)が成り立つ材料があることもいくつかの文献において説明されています。

以下の表は、10℃2倍則(半減則)などについての記載がある文献です。

 材料  文献 ポイント/引用
ゴム 一色節也
『耐熱老化性』
日本ゴム協会誌 38.10 (1965): 884-897.

10℃2倍則が成立


『一般に活性化エネル ギーが25kcal/molくらいであると100℃近辺では、温度が10℃上昇すると寿命の低下率が1/2になるので、このような経験則(※10℃2倍則)が得られたもののようである』

ゴム

渡辺茂隆.
『配合設計と加硫ゴムの諸特性』
日本ゴム協会誌 46.8 (1973): 658-665.

<化学的反応が支配的>
10℃2倍則が成立

<拡散現象が支配的>
10℃2倍則は成立しない


『化学的反応が劣化速度を支配している場合は、直線の傾斜がほぼ似ており、E(活性化エネルギー)はだいたい20~30kcal/mol程度の値となっている。これは、"温度 が約10℃上昇すると、寿命 がだいたい1/2に近い値となる"ことになる。ただし、化学反応以外のものが劣化速度を支配する場合は、この傾斜が大きく異なってきて、たとえば、 拡散現象が支配的になると、E=10kcal/mol前後の値にまで小さくなる場合が多く、 10℃半減則も大きくはずれる結果となる』

ゴム 坪井学、吉村達彦
『機器構造部品の安全性設計・予防保全における信頼性工学適用』
材料 50.2 (2001): 187-192.

 10℃2倍則が成立


100℃付近における疲労寿命における実測データと比較

アルミ電解
コンデンサ
 TDK株式会社HP 
アルミ電解コンデンサの特性

10℃2倍則が成立


『電解液の消失量は温度と関係し、アレニウスの法則と呼ばれる化学反応速度論にほぼ従うことが知られています。これは使用温度が10℃上がれば寿命は2分の1になり、 10℃ 下がれば寿命は2倍になるという法則で、10℃2倍則とも呼ばれます。』

 絶縁紙 田村良平, et al.
『経時生成ガスによる絶縁紙の劣化診断』
電気学会論文誌. A101.1 (1981): 30-36.

10℃2倍則は成立しない 


絶縁紙の劣化(平均重合度残率の低下)
・160℃の時の寿命が半減する温度
 ⇒167.9℃(温度差7.9℃)
・100℃の時の寿命が半減する温度
 ⇒105.9℃(温度差5.9℃)

・60℃の時の寿命が半減する温度
 ⇒64.7℃(温度差4.7℃)

絶縁材料 一般財団法人関東電保安協会 保安本部事業開発部
『劣化メカニズムの整理』

材料の種類による


・A種絶縁材料:8℃2倍則
・B種絶縁材料:10℃2倍則
・H種絶縁材料:12℃2倍則

プラスチック 中尾政之、宮村利男 
『知っておくべき家電製品事故50選』 
日刊工業新聞社

10℃2倍則が成立


『ブラウン管式テレビの高圧トランスでは、成形ケースが割れて高圧が周辺にリークした。この時のプラスチックの破壊がいわゆる10℃半減則そのものを示していた』

 

経験則を適用しようと考えている材料、使用温度によっては、目安として使えるケースも多いのではないかと思います。

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10℃2倍則などをサイト上で簡単に計算するためのツールを準備しています。

【設計者のための技術計算ツール】 10℃2倍則(10℃半減則)
【設計者のための技術計算ツール】 8℃2倍則(8℃半減則)

【設計者のための技術計算ツール】 12℃2倍則(12℃半減則)

【参考資料】
※1 一色節也. "耐熱老化性." 日本ゴム協会誌 38.10 (1965): 884-897.

最終更新 2017年9月6日

 

投稿日:2016年6月15日 更新日:

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