プラスチックやゴム、接着剤などの有機材料は、熱や水分などにより少しずつ劣化します。しかも、その劣化の程度が大きいため、使用期間中にどの程度劣化するかを想定することが、製品設計を行う上で重要なポイントになります。実際の使用期間に渡って劣化を評価することは、数年~数十年の期間を必要とするため不可能です。したがって、何らかの加速試験を行う必要があります。最も一般的な加速試験が、アレニウスの式(アレニウスの法則)を利用する方法です。本稿ではアレニウスの式の考え方と利用する際の注意点について解説します。
アレニウスの式とは
材料の劣化は分解や酸化、重合などの化学反応により進んでいきます。その化学反応は分子同士の衝突により起こりますが、分子が持つエネルギーが下記図の活性化エネルギーEaより大きい場合のみ、化学反応が起こります。
このような考え方を元に、アレニウスは化学反応の速度を以下の式で表しました。
k=A exp(-Ea/RT)・・・①
k:反応速度定数
A:定数
Ea:活性化エネルギー
R:気体定数
T:絶対温度(K)
活性化エネルギーEaはそれぞれの材料固有の値ですので、化学反応の速度は温度に依存することをアレニウスの式は表しています。
反応がある一定のレベルまで進む時間(物理量P0⇒P、例:寿命)をLとすると、
ln P=-kL+ln P0・・・②
ln:自然対数
P0:物理量の初期値
P:L時間後の物理量
k:反応速度定数
L:反応がある一定のレベルまで進む時間
とすることができます。
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式①、②より
L=A' exp(Ea/RT)・・・③
両辺の対数を取ると、
ln L=A"+Ea/RT・・・④
となります。
A"、Ea/Rは定数ですので、Lの対数と温度の逆数は一次関数(直線)となることが分かります。
したがって、この式を利用すれば、以下のグラフのように、数日から数か月程度の短期間で、長期の劣化の進み具合を予測することができます。
加速試験は製品設計を行うに当たっては必須です。私も実際に以下のような材料で、アレニウスの式を使って劣化を予測してきました。
<アレニウスの式を使った事例>
・熱可塑性プラスチックの物性値変化
・熱硬化性プラスチックの物性値変化
・エラストマーの物性値変化
・発泡プラスチックの物性値変化
・接着剤の接着強度低下
・ホットメルトの接着強度低下
・両面テープの接着強度低下
材料メーカーが劣化のデータを持っていれば、設計者も楽になるのですが、大手も含めてほとんどの材料メーカーは、劣化のデータを持っていない、または出したがらないというのが現実です。製品メーカー各社が加速試験を重複して実施していると考えると、もっと効率的な方法はないかなといつも思ってしまいます。
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【参考資料】
JISK7226 「プラスチック-長期熱暴露後の時間-温度限界の求め方」
本間精一 『設計者のためのプラスチックの強度特性』 工業調査会
齋藤勝裕 『数学いらずの化学反応論―反応速度の基本概念を理解するために』 化学同人
一色節也. "耐熱老化性." 日本ゴム協会誌 38.10 (1965): 884-897.
最終更新 2017年9月6日