『アクセシブルデザインの発想-不便さから生まれる「便利製品」 』
星川 安之 (著) 岩波書店
玩具メーカー、共用品推進機構で「不便さの解決」を推進してきた著者が、アクセシブルデザインについてコンパクトに解説したブックレット(総ページ数62)です。視覚障害者が内容物を把握するために付けられている牛乳パック上部の切欠きや、車椅子使用者と視覚障害者の双方に配慮して決められた車道と歩道間の段差など、普段は意識することがあまりない「アクセシブルデザイン」の考え方について数多くの事例とともに解説しています。その中でもトランプは「右利き用」であるという話は、私にとっては新たな気付きでした。
以前より「ユニバーサルデザイン」という言葉には馴染みがあったのですが、最近「アクセシブルデザイン」という言葉をよく見聞きするようになったので手に取りました。アクセシブルデザインの考え方は、日本の提案によりISO/IECガイド71として国際規格化され、その後JIS Z8071としてJIS化されています。アクセシブルデザインとユニバーサルデザインは似たような意味なのですが、ISO/IECのガイド作成時に、ユニバーサルデザインという言葉を使うと、すべての人が使えると誤解されるのではないかという懸念があり、アクセシブルデザインという言葉が採用されたようです。(出典※1)
世の中の設備や製品は、特に障害者にとっては、以前と比べて格段に使いやすくなっていると、著者は本の中で解説しています。それは障害者側が自分たちの要望を発信し、作り手側がそれに応えて来たからだと言います。つまり双方の努力が大切だということです。その考え方は重要だと感じました。設計者として製品作りに携わって来ましたが、企業や設計者側が「使う側のニーズをいかに把握できるか」という視点ばかりにとらわれていたような気がします。
少し前に、私の出身地である長崎県長崎市のJR浦上駅で、高架化工事に伴い車椅子利用者がホームを利用できなくなるという問題が発生しました。作り手側が車椅子利用者側のニーズを理解していなかったこと(または予算などの問題で対応できなかった?)、車椅子利用者側が作り手側に自らのニーズを伝えきれていなかったこと、その両方に課題があったと言えるのかもしれません。(ただし、この事例では、作り手側がもっと配慮しておくべきだったと思いますが。)
今後国内の高齢者人口は微増に留まるものの、その比率は大きく上昇していきます。
65歳以上の割合 | |
2015年 | 26.8% |
2025年 | 30.3% |
2035年 | 33.4% |
2045年 | 37.7% |
2055年 | 39.4% |
データ:国立社会保障・人口問題研究所 平成24年1月推計(出生中位、死亡中位)
日本は2055年には5人に2人が高齢者という国になります。国内市場に向けた製品を作って行くのであれば、アクセシブルデザインという考え方は必須だろうと感じます。また、このような超高齢化した社会は日本が世界で初めて経験します。アクセシブルデザインに関するノウハウを積み重ねて行けば、世界の中でかなりのアドバンテージを持つことできるのではないでしょうか。
【参考文献】
※1 日本障害者リハビリテーション協会 情報センターホームページ 「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年12月号
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/norma/n365/n365005.html