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プラスチック材料を使った製品の「使われ方」の見極め - 製品設計知識

プラスチック材料を使った製品の「使われ方」の見極め

更新日:

2016年1月にプラスチックス・ジャパン.comに寄稿した記事を一部改変して掲載します。

 

 

製品を設計するにあたっては、設計の初期段階において、使用者が製品をどのように使用するかを見極める作業が非常に重要です。特にプラスチック材料を使った製品においては、材料物性が環境から受ける影響が大きいため、その作業の重要性はさらに高くなります。プラスチック材料を使った製品の不具合事例を見ても、製品の使われ方の見極めが不足していると思われるケースがよくあります。本稿ではプラスチック材料を使った製品を念頭に、その使われ方を見極めることがいかに重要であるかを解説したいと思います。

 

 

製品の使われ方の分類

製品の使われ方は下表のように4つに分類することができます。

 

製品の使われ方説明安全性
に関する性能(例)
安全性以外
に関する性能(例)
意図される使用事業者が意図した製品の使われ方確保確保
予見可能な誤使用事業者が意図した製品の使われ方ではないが、合理的に予想可能な使われ方確保ケースバイケース
(各事業者が判断)
異常使用事業者が意図した製品の使われ方ではなく、予想できないか、予想できても社会的に異常と判断される使われ方確保しない(注意喚起のみ実施)確保しない
無謀使用事業者が意図した製品の使われ方ではなく、予想できないか、予想できても社会的に無謀と判断される使われ方確保しない(注意喚起も実施しない)確保しない

 

※国際規格等において異常使用と無謀使用の定義はない。ここでは以下のように区別している。

 

異常使用:製品の安全性確保はしないが、注意喚起をする使われ方
無謀使用:製品の安全性確保も注意喚起もしない使われ方

 

 

 

それぞれの使われ方に対して、どのように製品の性能を確保するかについては、「安全性に関する性能」と「安全性以外に関する性能」の2つに分けて検討する必要があります。

 

 

<安全性に関する性能>

 安全性については、「意図される使用」と「予見される誤使用」の両方において、性能を確保することが法律(製造物責任法)や規格(ISO/IECガイド51など)で求められています。したがって、製品設計における最も重要な要求事項の1つである、製品安全を確保するためには、製品の使われ方を漏れなく抽出することは必須の作業といえます。

 

 

<安全性以外に関する性能>

安全性以外については、法律や規格などの規定はありません。業界基準などを適用している製品もあると思いますが、基本的には各事業者がどの範囲まで性能を確保するかを独自に判断する必要があります。「意図される使用」における性能を確保することは言うまでもありませんが、「予見可能な誤使用」において性能を確保するかどうかは、ケースバイケースです。一般的には、誤使用の頻度が高いものや、誤使用の結果生じる不具合の影響が大きなものについては、ある程度の性能を確保するように設計段階で配慮します。「異常使用」や「無謀使用」は性能を確保しないことが普通です。

 

多くの設計者を悩ませていることが、それぞれの使われ方の線引きです。法律や規格にはその線引きの基準について具体的な言及はありません。クレームや製品事故、リコール、裁判事例、業界の標準などを考慮しながら、自社で判断していくしかないのです。言い方を変えると、その判断をできること自体が、重要な設計ノウハウのひとつであるともいえます。

 

 

 

製品の使われ方の抽出
製品の使われ方の抽出は、実際にやってみると意外と難しいものです。思いつくままに抽出するだけでは抜けが発生したり、情報が多くなり過ぎてコントロールできなくなったりします。以下を考えながら抽出することをお勧めします。

 

  • 5W1Hを意識して抽出する(誰が、何を、いつ、どこで、なぜ、どのように)
  • ライフサイクル全体を想定して抽出する(製造⇒輸送⇒販売⇒使用⇒保守⇒廃棄)
  • 製品への影響が大きなノイズを意識しながら抽出する(温度、水分、荷重など)
  • 同様のノイズにおいては、製品に与える影響が最もシビアな使われ方を抽出する
    (例:環境温度が影響を与えるのであれば、最も温度が高い使われ方を抽出)
  • 製品の仕様決定に必要のない使われ方は抽出しない

 

 

 

「プラスチック製の踏み台」を例に、製品の使われ方の抽出例を下表で示します。

 

 

ライフサイクル意図される使用予見可能な誤使用異常使用無謀使用
製造倉庫内で保管直射日光の当たらない屋外で保管直射日光の当たる屋外で保管雨ざらしで保管
輸送・据付丁寧な荷卸し荷卸しの際誤って落とす荷卸しの際に投げる荷卸しの際に蹴る
販売5段段積みして販売8段段積みして販売12段段積みして販売15段段積みして販売
使用室温25℃で成人男性が使用直射日光下(40℃)で成人男性が使用真夏の車内に保管(60℃)し、直後に成人男性が使用室温95℃のサウナの中で成人男性が使用
保守壊れたら買い替え壊れたら接着剤で修理して使用
廃棄適切な処理方法で廃棄中古用品店へ売却自宅で燃やして処分する

 

 

 

例えば、「使用」時における「予見可能な誤使用」が「直射日光下(40℃)で成人男性が使用」であることと想定した場合は、下表のように、製品の要求事項を具体的に検討・決定します。次にそれらを満足するための構造や材料などの詳細な仕様を検討していきます。

 

予見可能な誤使用安全性に関する
製品への要求事項
安全性以外に関する
製品への要求事項
直射日光下(40℃)で
成人男性が使用
・安全性を確保する
・40℃において成人男性が使用しても安全な強度とする。
・想定する成人男性の体重は91.1㎏とする
(18~29歳男性の95パーセンタイル値)
・直射日光における変色対策は実施しない
(取扱説明書にて注意喚起を行う)
・40℃における剛性感の不足はやむを得ないものとする。
・想定する成人男性の体重は65.4kgとする
(18~29歳男性の平均値)

 

 

このような設計プロセスを必要なすべての使われ方について実施します。負荷が大きいと思われるかもしれませんが、この作業をせずに品質の高い製品を設計することはまず不可能です。特にプラスチック材料は、物性が環境条件によって大きく変化するため(下図参照)、この作業に負荷を掛けずに設計すると、製品事故や大クレームとなって市場から帰って来る可能性が高くなります。急がば回れではないですが、この作業を実施することが結局最も効率的に設計を進める方法なのです。

 

 strength

 

ABSの曲げ強度と温度の関係(デンカ株式会社 「デンカABS物性表」より)

 

 

実際には、完全な新規製品はほとんどないので、設計変更点に関係する使われ方のみを抽出するだけで構いません。

 

 

製品の使われ方の検討不足事例

プラスチック製の踏み台で、製品の使われ方の検討不足が原因と思われる製品事故が発生しています。2015年8月27日のNITE(独立行政法人製品評価技術基盤機構)のニュースリリースによると、折り畳み式のプラスチック製踏み台により、これまでに重軽傷者が12名発生しており、一部の製品はリコールとなっています。

 

 chair

破損したプラスチック製踏み台(NITEニュースリリースより)

 

 

NITEによると、使用者がキャンピングカーの車内から踏み台を使って降りる際に、約30cmの高さから飛び降りるような使い方をしたため、踏み台が破損し、転倒・骨折したとのことです。踏み台を製造・販売している多くの事業者が、飛び降りるような使い方をしないように注意喚起していなかったことを考えると、そのような使われ方を想定していなかった可能性が高いと思われます。製品の使われ方を見極めることがいかに重要かを教えてくれるよい事例です。

 

 

おわりに

製品の使われ方を明確にせずに、品質の高い製品を設計することは困難です。特にプラスチック材料は物性自体の余裕代が少なく、環境条件に対する安定性も低いため、製品の使われ方の見極めが非常に重要です。プラスチック材料が原因の製品不具合は非常に多く発生していますが、その多くが使われ方の抽出不足と、プラスチック材料の環境条件に対する不安定性に起因すると筆者は考えています。プラスチック材料を使った製品において、製品の使われ方を見極めることの重要性を理解して頂ければ幸いです。

 

 

<参考資料>

NITE(独立行政法人製品評価技術基盤機構)ニュースリリース 「樹脂製踏み台(折り畳み式)の破損転倒事故にご注意!」(2015年8月27日) 

 

 




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