設計不良を防止するためには、大きく分けて再発防止対策と未然防止対策の2つがあります。この2つの対策は相互に依存する関係ですが、両方ともに人材が果たす役割が非常に大きいことは言うまでもありません。
人材にも様々な役割があります。設計者だけを育成していても、設計不良を防止することはできません。下記の5つの役割を担える人材が揃った時、初めて設計不良を防止することができるのです。
これらについて、それぞれ簡単に解説します。
設計者
実際に設計を行う人材です。設計者が極めて優秀であれば、設計不良を起こすことは稀です。したがって、優秀な設計者になれる能力を持った人材を採用し、育成していくことは非常に重要な考え方です。
しかし、設計者をすべて優秀な人材で揃えることができる企業はほとんどありません。また、たとえ優秀な設計者であっても、ミス(エラー)を100%防ぐことはできません。優秀ではない設計者をサポートし、ミス(エラー)を防ぐ人材や仕組みが必要なのです。
設計者のミス(エラー)には大きく分けて、「スキル不足」「うっかり」「故意」の3つがあります。他の4つの人材の役割により、これらのミス(エラー)を防止します。
チェッカー
設計者の「うっかり」によるミス(エラー)を防止する役割を持った人材です。やるべきルールを知っていて、それに対応できるスキルがあるにも関わらず、ミス(エラー)をしてしまうことが「うっかり」です。設計チームの先輩、チームリーダーなどが、その役割を担うことが一般的だと思います。図面ミスを防止するための検図、設計ルールを抜けなく適用しているかのチェックなどが代表的です。主に再発防止への対策といえます。
製造現場においては、ヒューマンエラー防止に各社かなり力を入れています。大学などにおける研究テーマとしても、たくさんの論文が書かれています。しかし、一般的に設計者のミス(エラー)は軽視されがちです。図面や設計書をほとんど見ないで、押印・サインをしているリーダーや上司も少なくないでしょう。しかし、「To err is human(人は間違える)」は人類の真理です。設計者も人ですので間違えます。そして、設計者は間違えるという前提で、チェッカーをしっかり配置し、その能力を育成していかなければなりません。
レビュア
設計者の「スキル不足」によるミス(エラー)を防止する役割を持った人材です。既にルールが明確なもの(再発防止対策)については、チェッカーがその役割を担いますが、ルールが明確ではないもの(未然防止対策)において、その能力が必要とされます。優秀な設計者であれば気付くであろう問題点を指摘することができる人材です。長い経験と豊富な知識が必要とされます。設計レビュー(FMEA、FTAなど)において、その役割を果たすことが一般的です。
レビュアには技術的な能力だけではなく、効率的に設計不良を防止し、若手の設計者を育成するという役割も担ってもらう必要があります。設計不良を防止するためには、設計者の育成とともに、レビュアの育成も重要な課題であるといえます。
承認者
設計内容について承認/却下の判断をする人材です。当然、判断内容について責任が取れる立場の人である必要があります。したがって、判断内容のレベルや重要性などによって、その担当も変わることが一般的です。設計レビューなどで、設計者とレビュアが様々な議論をしますが、承認権限者がいない場合、真剣な議論をすることは不可能です。それぞれの設計内容について、誰が最終的に承認/却下の判断を下すのかを明確にして設計を進めることが重要です。
仕組み構築者
設計プロセスや設計資産(ナレッジ)を構築、運用、改善する人材です。
製造は「品質は工程で作り込む」とよく言われますが、設計も同じです。「設計品質は設計プロセスで作り込む」ことが、設計不良を防止する上で最も効果があります。したがって、優れた設計プロセスを構築することに取組むことが重要です。
また、企業の設計能力はそれまで蓄積してきた設計資産(ナレッジ)に大きく依存します。設計資産(ナレッジ)は自然に蓄積していくものではありません。戦略を持って、地道にナレッジを収集し、活用できるように高度化していかなければ、役に立つ設計資産(ナレッジ)にはならないのです。
設計トラブルが多い企業の大部分は、この仕組み構築者の役割を担う人材が不足しています。そもそも存在しない企業もあります。仕組み構築者の仕事は、直接的に利益を生み出すことはできませんが、実際には設計者が利益を生み出す製品を創るためのベースになるのです。経営トップは、そのような設計プロセス、設計資産(ナレッジ)を構築、運用、改善する人材の育成を強力に進めなければなりません。
設計不良を防止するためのヒントになれば幸いです。
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