『吉田基準 価値を高め続ける吉田カバンの仕事術』
吉田輝幸(著) 日本実業出版社
「PORTER」で有名な株式会社吉田(吉田カバン)の3代目社長・吉田輝幸氏が、吉田カバンの仕事について解説した本です。吉田カバンは自社工場を持っておらず(いわゆるファブレス)、すべて国内の工房に生産委託しているそうです。その工房の職人たちの間で自然発生的に生まれたのが、「吉田基準」という言葉。吉田カバンに厳格なマニュアルなどはないのですが、吉田カバンの考え方や仕事の進め方を理解した職人たちが、吉田カバンには高い品質が求められるという認識を表現してできた言葉です。
吉田カバン創業者の「カバン屋だからカバン以外作らない」「一針入魂」などの言葉には、カバン作りへの強いこだわりを感じます。やはり、長い間売れ続ける製品を作ることができる企業というのは、ものづくりに対する強いこだわりや、消費者に支持される考え方を持っているように思います。
はるか昔に海外生産していたと思われるような製品が、まだ日本でものづくりをしていて、しかも長い間売れ続けている。日本でものづくりを続けたい経営者や技術者にとって、ヒントが得られる本ではないでしょうか。
吉田カバンはメイド・イン・ジャパンにこだわり、今後も海外生産をするつもりはないとのこと。著者の3代目社長は、「家電のような大量生産をする工業製品とカバンは違うのではないか」とし、カバンの製造は国内で行うことが望ましいと述べています。
私自身、この本を読んで、メイド・イン・ジャパンの価値とは何なのだろう?とふと疑問が湧きました。もちろん、日本の産業構造や文化などが、特定の製品を作るのに他国より優位性(比較優位)がある分野はあります。しかし、カバン作りが比較優位を持っているとは思えません。それでも吉田カバンの製品は長い期間に渡って、メイド・イン・ジャパンを貫き、しかも売れ続けている。メイド・イン・ジャパンを「比較優位」の観点だけで語ってはいけないのだと思います。
御存知の通り、インバウンドブームで「メイド・イン・ジャパン」は流行しています。知り合いの経営者も「メイド・イン・ジャパンであれば何でもよく売れる」と、メイド・イン・ジャパンを売り文句に国内や海外で売上を伸ばそうと奮闘していますし、日本企業もインバウンド需要を狙った製品を次々と発売しています。
しかし、インバウンドのいわゆる「爆買い」は間違いなく一過性のものでしょうし、メイド・イン・ジャパンであれば売れるというのが続くことは、あり得ないと思います。メイド・イン・ジャパンであることの価値や、ストーリーを購入者が納得しなければ、売れ続けることは不可能です。
吉田カバンの価値はメイド・イン・ジャパンで得た「吉田基準」という品質(=ブランド)だったのだと思います。メイド・イン・ジャパンでなければ、「吉田基準」を達成できないのか、本当の所はよく分かりません。しかし、著者はそう考えているということでしょう。
私は中小製造業を支援している立場として、メイド・イン・ジャパンに付加価値を付けて行きたいと考えています。そのためには、メイド・イン・ジャパンの価値に対して、消費者が納得できるような、また感動できるようなストーリーが語れるようになることが必要なのだろうと感じます。