2016年10月にプラスチック・ジャパン.comに寄稿した記事を掲載します。
1. はじめに
前回は安全設計手法の中でも最も重要な手法の一つである「フェールセーフ」について解説した。今回は「フェールセーフ」と並んで重要な安全設計手法である「フールプルーフ」について解説する。
2. フェールセーフの位置づけ
製品安全を実現するためには、「ものは壊れる」「人は間違える」ことを前提とすることが求められる。また、リスク低減の方法は危害の程度を小さくするか、発生頻度を下げるかの2つの方法がある。
図1は代表的な安全設計手法の中のフールプルーフの位置づけを示したものである。
図1 フールプルーフの位置付け
前回解説したようにフェールセーフは「ものは壊れる」「発生頻度を下げる」に対応する代表的な安全設計手法である。フールプルーフは「人は間違える」「発生頻度を下げる」に対応する代表的な安全設計手法である。
3. フールプルーフとは
使用者が誤った使い方(誤使用)をしても、安全性や信頼性を確保する設計の考え方がフールプルーフである。3ステップメソッドに従えば、まず優先すべきは危害の程度を低減することである(多くの場合、フールプルーフによって危害の程度を低減することはできない)。しかし、危害の程度を十分に低減することは、難しいことが多いのが現実である。また、製品事故の多くは使用者の誤使用に起因する。したがって、使用者の誤使用に対応するフールプルーフは製品安全を確保する上で、フェールセーフと並んで重要な手法だと言える。
フールプルーフは身の回りの製品で、頻繁に目にすることができる。フールプルーフを知るためには、実例を学ぶことが最も近道である。以下でフールプルーフの事例を紹介する。
4. フールプルーフの事例
【事例①】電動コーヒーミル
図2 電動コーヒーミル
内容 | |
使用者の誤使用 | 刃が動いているのに手を入れる |
避けるべき事象 | 刃による怪我 |
フールプルーフ | フタを閉め、矢印部分を下に押すことによりスイッチがONになる。(矢印部分の内側に突起がついている) |
余程のことをしない限り、回転している状態の刃に触れることは難しいだろう。誤使用防止という意味ではよい設計だと言える。しかし、スイッチ周りに挽き豆が入り込むとスイッチがスムーズに動作しなくなる危険性もある。
【事例②】ボタン電池/コイン電池を使用する体温計
図3 体温計
内容 | |
使用者の誤使用 | 子供が体温計で遊んでいて、ボタン電池/コイン電池を取り出す |
避けるべき事象 | 取り出したボタン電池/コイン電池を子供が飲み込む(誤飲) |
フールプルーフ | ボタン電池/コイン電池のカバーにネジを設け、ドライバーを使わないと取り出せないようにする |
ボタン電池/コイン電池の誤飲事故はたびたび発生している。子供が触れる可能性が高い製品では、簡単に取り出せないようにする対策(フールプルーフ)は必須である。
【事例③ ゲームのリモコン】
図4 ゲームのリモコン
内容 | |
使用者の誤使用 |
リモコンを分解する |
避けるべき事象 | 火災、感電、製品機能の信頼性低下 |
フールプルーフ | 特殊ネジ(プラスドライバーやマイナスドライバーでは空回りする) |
特殊ネジは代表的ないたずら防止法(タンパープルーフとも言う)である。公共の場に設置される製品で採用されることが多い。
【事例④ 浴室の水栓金具】
図5 浴室の水栓金具
(出所:LIXIL HP)
内容 | |
使用者の誤使用 | 給湯機の高温設定時(60℃など)に、水栓金具を高温設定にしたままシャワーを浴びる |
避けるべき事象 | 火傷 |
フールプルーフ | ロック(写真赤丸部分)を解除しないと高温設定できないようにする |
5. フールプルーフを行う上でのポイント
フールプルーフを行う上で、設計者が考えておくべきポイントがいくつか存在する。
5.1 製品の使われ方の見極め
フールプルーフは使用者の誤使用への対策であるため、製品がどのように使われるかをしっかり見極める必要がある。しかし、想定されるすべての使われ方に対して対策を施していては、市場で受け入れられるコストで製品を作ることはできない。したがって、どのような使われ方まで対応するかを見極めることが重要になる。
一般的には、使用者の「意図する使用」「予見可能な誤使用」において安全性を確保することが求められる。設計者はこの「意図する使用」「予見可能な誤使用」において、フールプルーフなどを駆使しながら、安全を確保しなければならない。
5.2 使用者のフールプルーフ慣れ
私たちの身の回りの製品は、これまでの多くの設計者・技術者の努力により、フールプルーフが当たり前となっている。多少の誤使用をしても、すぐに怪我をするようなことはほとんどない。
一方で、フールプルーフな製品に囲まれて生活をしていると、使用者の危険予知能力はどんどん低下していく。このことは、設計者が十分に認識しておかなければならない。将来的には、現時点では考えられないような誤使用もあり得ると考えておく必要があるのだ。
6. おわりに
繰り返しになるが、製品安全を実現するためには「人は間違える」「ものは壊れる」ことを前提としなければならない。それらに対応するフェールセーフとフールプルーフは、製品の安全を確保する上で、最も重要な手法だと言える。今回解説したフールプルーフは、多種多様な方法が考えられる。設計者のアイデア次第では、コストUPせずに、安全性を向上させることも可能であろう。身の回りの製品のフールプルーフを探して、自社製品に活用できないか考えてみてほしい。
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