中小製造業が売上・利益を向上させるためには、製品の付加価値を上げるというのが定石です。しかし、国内市場における海外企業との競合で考えた場合、製品価格に対して相対的に物流費が高いものほど、つまり付加価値が低いものほど国内企業に有利です。
関門海峡を通るコンテナ船(山口県下関市)
日本の人口はこれから減少するのだから、どんどん海外に出て行こうという雰囲気があります。確かに日本の人口はこれから減少の一途であり、2050年には一億人を割るという予想がなされています(※1)。一人当たりのGDPに変化がなければ、日本全体のGDPが2割程度縮小することになります。そういう意味で海外市場を目指すという方向性は間違っていないと思いますが、すべての中小製造業が海外に出ることができるわけではありません。また、その必要もありません。
大企業は国内市場全体を相手にしているので、市場の縮小はそのまま売上高の減少につながります。そのため、企業の規模を維持しようと思えば、海外進出せざるを得ません。ほとんどの大企業の基本戦略の一つにグローバル進出が掲げられているはずです。
しかし、多くの中小製造業にとっては、大企業ほど深刻な問題ではありません。国内市場のごく一部だけを相手にしており、工夫次第で2割程度売り上げを増やすことは可能だからです。国内市場の縮小を心配するよりも、自社の強みを生かし、顧客にメリットのある製品やサービスをいかに提供するかの方がよほど重要だと思います。
では中小製造業はどのような製品やサービスで戦えばよいのでしょうか。今回は物流費に着目して考えてみます。
日本ロジスティクスシステム協会がまとめている「2014年度 物流コスト調査報告書」によると、製造業の業種別「売上高物流コスト比率」は以下のようになっています。
日本ロジスティクスシステム協会 「2014年度 物流コスト調査報告書」を元に筆者作成
明らかにグローバル競争が厳しい業種ほど「売上高物流コスト比率」が低いことが分かります。
私も携わっていた「窯業」つまり衛生陶器については、自社、他社含めて海外生産品と競合になることはほとんどありません。他の建材や住宅設備製品に関しても、海外生産比率はそれほど高くないですし、海外企業との競合はほとんど聞いたことがありません。
一方、輸送機器、電気機器などは「売上高物流コスト比率」が非常に低くなっています。スマートフォンや家電などで海外企業に全く勝てないのは、物流費が相対的に低いため、世界中で最も競争力のある企業と戦わなければならないことが理由の一つであることは間違いありません。
先日、トヨタ自動車九州(福岡県宮若市)の工場見学に行きましたが、部品の6割は九州内に工場がある協力企業からの納品だそうです。九州外から納品されている製品は電装品などがメインで、中部地方などから運んでいるそうです。電装品などは相対的に物流費が低いので、中部地方から運んでもコスト上大きな影響がないのだと考えられます。
トヨタ自動車九州宮若工場内ショールーム展示
つまり空気を運んでいるような付加価値の低い製品は、海外企業に対して圧倒的な優位性を持つことができます。例えば、プラスチックのケース類、発泡製品などがその一例です。実際、100円ショップに並んでいるプラスチックケースをチェックしてみてください。ほとんどの製品が日本製です。
【参考資料】
※1 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年)」
日本ロジスティクスシステム協会 「2014年度 物流コスト調査報告書」
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