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◆◇◆メルマガ「製品設計知識」2025年5月19日号◆◇◆
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田口技術士事務所 代表の田口です。今回は製造業の競争力に直結する設計部門の人材育成について考えてみたいと思います。
<設計部門の人材育成>
設計部門の人材育成は企業にとって非常に重要な課題です。なぜなら、設計部門の能力が製造業の競争力を左右する時代になっており、その能力は基本的に人材に依存しているからです。筆者は技術コンサルタントとして約10年間、設計者教育や設計業務改善のお手伝いをしてきました。設計部門の人材育成に関しては色々と思うところがあります。そんな中、本内容に関して執筆のお誘いを頂いたので、日刊工業新聞社の専門誌「機械設計」の5月号に以下のタイトルで寄稿しました。
”設計部門の人材育成課題と解決策の提案”
https://seihin-sekkei.com/blog-20250515/
この記事から人材育成に関してどのような課題があるのかを抜粋します。
(1)設計部門の人材の定義
設計部門の能力は、設計者のスキルに大きく依存するが、設計者だけで成り立っているわけではない。「チェッカー」「レビュアー」「仕組み構築者」「マネージャー」「承認者」のレベルアップも重要である。
(2)学ぶべきスキルと到達度の明確化
最近は設計者が学ぶべき範囲が広がっている。プログラミングや機械学習、3DCADの操作など、新しいデジタル技術がどんどん生まれている。伝統的な工学のスキルだけなく様々なことを学ぶ必要がある。また、学生や若手設計者の興味は、重厚長大な機械よりも、バーチャルなものに移っている。そのような人材に効率よくスキルを身につけてもらうには、獲得してほしいスキルを明確化することが重要。
(3)自ら学ぶ人材
学ぶべきことが広範囲に渡るため、すべてのスキルについて企業側が研修などを提供することは困難。人材のスキルを上げるには、自ら学ぶ人材になってもらうことが近道だ。簡単なことではないが、やれることはたくさんある。例えば、社内研修の講師をやってもらうことだ。人に何かを教えようと思うと、研修時間の何倍もの勉強をしないと、とても人前で説明することができない。有名な経営学者のドラッカー氏は「人は教えるときにもっとも学ぶ」と述べている。
(4)外部との交流機会をつくる
設計者(それ以外の人材も)は企業内に籠もり過ぎている。積極的に外に出て、多様な技術者と意見を交わすことが重要である。なぜなら、筆者が20年前に経験したような失敗を、今でも多くの設計者が現在進行系で失敗しているからだ。外に出て色々な技術者と交流していれば、そのような失敗を未然に防げたかもしれない。また、社外に出て他の業界の技術者と話をすると、自分がいかに何も知らないのかを実感することがある。逆に、自分は意外とこの分野であれば、高いレベルにいるのではないかと感じることもある。社内にいるだけでは、そういったことはなかなかわからない。
(5)リーダー/マネージャー候補の発掘
多くの企業に不足しているのが、設計部門におけるリーダーシップ、マネジメント能力である。設計はボトムアップの改善だけではうまくいかない。なぜなら、ボトムアップに任せると、必ず部分最適の設計になるからだ。標準化、共通化、モジュール化のような全体最適はトップダウンで進める必要がある。トップダウンを行うためには、優秀なリーダー、マネージャーが必須である。
(6)アイデアを出せる人材の発掘
すばらしいアイデアがあれば、企業の競争力を大きく向上させることができる。しかし、アイデアを出す能力が高い人は限られているというのが筆者の理解である。アイデアを出す業務をたくさんの人材に経験させ、アイデアを出すのが得意な人を発掘する。そして、そのような人材をできるだけ設計の上流側に配置する。
(7)適材適所のマネジメント
人材には生まれ持った適性がある。生まれ持った適性は変えることは難しいため、適材適所のマネジメントが重要。設計業務に必要な能力は多岐に渡るため、すべてのスキルを一人の設計者が身につけることは不可能だ。設計部門全体として、必要なスキルに抜け・漏れのないようにすればよい。設計者の得意、不得意を見極め、できるだけ適性のある業務を行ってもらうことが、スキル構築の面では非常に重要だと考える。
(8)設計根拠を文書として残す
その材料を選定した理由やその寸法にした背景など、設計には必ず根拠がある。設計根拠を文書として残そうと思うと、中途半端な設計はできない。そういう意味では、設計者が設計根拠をしっかり残す行為自体が、設計者の人材育成につながると考える。しかし、「うちの設計者は設計根拠を残してくれない」という相談をよく受ける。これは設計の仕組みの問題である。FMEAやデザインレビューを通して、設計根拠を残さないと設計が完了しない仕組みにすれば、必ず残る。
生成AIの登場により、設計業務の一部がコンピュータに代替されつつあります。しかし、アイデア創出や総合的な判断、コミュニケーション、他者との協力関係構築など、人にしかできない業務はたくさん残っています。むしろ生成AIにはできないところで勝負していくことになりそうです。そういう意味では、人材育成がますます重要になってくると思っています。
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